盗聴法シリーズ(12) 盗聴法成立史(2・成立後その1)(Ver.1.583)


《第五部 新たなる疑惑》
1999[平成11]年8月13日 第145通常国会閉会。
8月18日 盗聴法(正式名称「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」)公布。
9月2日 神奈川県警で、ライターで体毛を焼いたり('99年3月6日)、実弾入りの拳銃を突きつけたり(同6月下旬)という集団暴行事件が発覚。
 森貞和生監査官室長は、「調査したが事実の確認はできなかった」と記者会見で述べた。
9月3日 神奈川県警で、相模原署の巡査長が押収した証拠品を持ち出して元女子大生を脅迫した事件('98年11月下旬)発覚。森貞氏は「持ち出したのはメモ帳」と説明、退職理由も自己都合から懲戒免職に訂正。
9月4日 神奈川県警の中林英二警務部長が、集団暴行事件で拳銃や手錠の使用を認める。証拠品持ち出しについても謝罪。また、所轄署員3名が警察手帳を紛失、戒告処分を受けていたことも明らかに。
9月5日 証拠品持ち出し脅迫事件で、神奈川県警の深山健男本部長は記者会見で、「無断で持ち出したのは証拠品で、元巡査長が女子大生に買い取りや交際を強要し、(写真だった証拠品の)ネガは焼却されていた」と発表。
9月9日 他にも続出した神奈川県警の不祥事に対し、国家公安委員会は「警察の信用を失墜させた責任は重い」として深山本部長、中林警務部長、森貞監察官室長に減給の懲戒処分。
9月16日 神奈川県警の森貞監察官室長、これまでに発言を二転三転させるなどして批判を浴びたため、室長を解任、兼任していた警務部参事官に専任。
9月20日 「盗聴法・組織的犯罪対策法に反対する超党派国会議員と市民の集い」開催。反対運動の継続と、盗聴法廃止を求める署名運動が提案される。
10月1日 神奈川県警捜査一課は、証拠品を無断で持ち出した相模原南署の元巡査長を窃盗容疑、実弾入りの拳銃を突き付けた厚木署の元巡査部長を銃刀法違反と暴力行為でそれぞれ逮捕。深山本部長が辞意を正式表明。
10月7日 警察庁の村上徳光官房審議官が、深山氏の後任として神奈川県警本部長となる。
10月21日 横浜地検、証拠品持ち出しの元巡査長、集団暴行事件で逮捕されていた元巡査部長を起訴。
10月31日 '96年12月17日に神奈川県警のS警部補が覚醒剤使用をしながら、論旨免職(退職金が出る)となっていたが、監査室の調べに対し、当時の関係者が「尿検査で陽性反応が出ていた」と証言。
11月2日 監査室の調べで、元警部補尿検査で、覚せい剤の陽性反応が出ていたにも関わらず、反応が消えるのを待ってから正式鑑定にかけていた事が明らかに。
11月6日 神奈川県警刑事部、元警部補と知人の女性を覚せい剤取締法違反の容疑で書類送検。また、当時の角田柾照(つのだ まさてる)監査室長に対し2月に退官した当時の渡辺泉郎県警本部長が不倫を理由に退職させるよう指示を出した事について、「事件を潰す意図があると思った」と供述している事が判明。
11月11日 衆議院地方行政委員会で、関口祐弘警察庁長官が一連の不祥事について答弁。警察庁が都道府県警の監査業務について、「都道府県警察に対しまして(監査に対する)監察を実施するということを現在検討いたしている」と。
11月12日 宮崎学氏、盗聴法廃止と盗聴法推進議員の落選を目的とした政治団体「電脳突破党」結成を宣言。
11月14日 覚せい剤事件をめぐる犯人隠匿や証拠隠滅の疑いで、渡辺元本部長ほか現職の警察庁キャリア2名を含む9人が横浜地検に書類送検される。
 深夜、10月5日に戸塚署の巡査部長と共犯の元巡査部長が同僚の女性警察官に半裸姿の写真などを送り付けて現金170万円を脅し取ろうとした容疑で逮捕される。
11月26日 「盗聴法廃止へ!署名運動発足集会」開催。海渡雄一氏、宮崎学氏、寺澤有氏、今井恭平氏らが発言。
 また、「盗聴法の廃止を求める署名委員会」が発足した。なお、署名参加者は、2000年9月25日現在、218096名に達している。
12月3日 参議院本会議で、「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法」(団体規制法)、「特定破産法人の破産財団に属すべき財産の回復に関する特別措置法」(被害者救済法)成立。
12月8日 電脳突破党、政治団体として登録、正式発足。
12月10日 渡辺元神奈川県警本部長を初めとする5名が、犯人隠匿などの容疑で横浜地裁に起訴される。
12月29日 偽証などの罪で服役していたオウム真理教(アーレフ)の上祐史浩氏が出所。
2000[平成12]年 1月6日 関口祐弘警察庁長官、辞意を表明。後任は田中節夫次長。
1月11日 警察庁次長の田中節夫氏が、第18代警察庁長官に就任。
1月20日 第147回通常国会開会。また憲法調査会も設置。
1月21日 この日までに、冷戦中、旧ソ連などの通信を傍受するアメリカ主導の「エシェロン(ECHELON、はしごの列の意。米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで編成)作戦」に関して、青森県の米軍三沢基地が拠点の一つになっていた可能性が強まった。アメリカの民間シンクタンク、国家安全保障公文書館が、情報公開法に基づいてアメリカ国家安全保障局(NSA)の機密扱いを解かれた公文書を分析して明らかにされた。
1月28日 新潟県三条市で、行方不明になっていた女性が9年2ヶ月ぶりに保護される。夜、新潟県警は「午後3時ごろ、病院から通報があり、柏崎署員が男に付き添っていた女性を発見、保護した」と発表。しかし実際の発見者は、柏崎保険所の医師や職員ら7名だった。
 同日、新潟県警は神奈川県警の不祥事を受けて行われた特別監察を受けたが、小林幸二本部長は監査官と酒や麻雀に興じ、途中女性発見の知らせを受けると、嘘の発表をする事を了承した。
1月29日 盗聴法の廃止を求める署名実行委員会が、東京・有楽町マリオン前で、第1回盗聴法廃止街頭要請を行う。
2月10日 小林幸二新潟県警本部長の会見で、S容疑者の前歴データを登録し忘れていた事が明らかに。
2月11日 新潟県警捜査本部がS容疑者を未成年者略取と逮捕監禁致傷の疑いで逮捕。
2月16日 機密文書の公開により、アメリカ主導の国際盗聴組織、エシェロンが、通信網を通じて世界の企業や個人の情報を盗聴し、米国企業に情報を横流しした疑いが強まった。
 これを受けて、フランスなどの欧州企業や実業家などが近く損害賠償請求の集団訴訟を起こす事を決めた。
2月17日 新潟県警は、1月28日の記者会見で「柏崎署員が病院で女性を発見した」と発表したのは嘘で、実際は柏崎保険所の医師や職員らである事を公表した。
2月18日 新潟県警小林本部長は、報道各社の個別取材に対し、
「第一発見者を公表することは発見者に迷惑がかかるという考えを良とした」が「保健所とのやり取りは12日夜に初めて知った。(不手際を)隠ぺいする余地はなく、(事実を)伏せたことに他意はない」と釈明。
2月20日 警察庁の上田正文審議官ら特別調査チームが、新潟県警の捜査の状況や嘘の報道発表について事情聴取。
2月23日 衆議院第二議員会館で、盗聴法の廃止を求める国会請願署名第1次提出。署名者10822名。
2月24日 警察庁が国家公安委員会に調査結果を報告。新潟県警の小林本部長が、嘘の発表の具体的内容についても事前了承した事が明らかに。
 また、この日発表された欧州連合(EU)の最新調査調査報告所によると、エシェロンに対抗して、フランスとドイツもアメリカ大陸に対し、共同で盗聴していた疑惑が指摘された。
 さらに、アメリカCBSテレビによると、カナダの元情報機関員マイク=フロスト氏が27日放送予定の番組収録の中で、1983年にサッチャー英首相(当時)が2人の英閣僚の行動を探るため、エシェロンに盗聴を依頼したと証言した。
2月25日 嘘の発表が発覚後、小林本部長は初めて記者会見を開き、「被害に遭われた女性とご両親に深くおわび申し上げます」と陳謝。
2月26日 小林本部長が、1月28日、行方不明女性発見の報を受けていた時に、監査官と酒や麻雀に興じていた事が明らかに。
2月27日 小林幸二新潟県警本部長と、中田好昭関東管区警察局長の2人が一連の不祥事により引責辞任する事に(29日付で辞任)。
 また、イギリスの週刊新聞『サンデー・タイムズ』紙が、取材に応えた元情報機関員らの証言を伝えた。それによると、ローマ教皇、故ダイアナ英元皇太子妃、インドの修道女の故マザー=テレサら世界的な著名人や人権団体の通信を盗聴していたという。
3月2日 小林幸二前新潟県警本部長と、中田好昭前関東管区警察局長の2人が、それぞれ約3800万円、約3200万円の退職金を貰う事に批判が相次いだため、退職金の受け取りを辞退。
3月7日 小渕恵三首相、中坊公平氏を金融、環境、国民生活について首相に助言する内閣特別顧問に任命。中坊氏は衆議院鳥取2区で出馬を予定している錦織淳(にしこおり あつし)氏(民主)を支持しており、現職で対立候補の竹下登氏(自民)を援護射撃するために中坊氏を首相側が取り込もうとしたのでは無いか、ともいわれた。
3月10日 木村晋介、佐高信、辛淑玉、宮崎学の四氏が、中坊氏の内閣特別顧問就任に対し、「市民のための"情報公開"(スパイ行為)を求める記者会見」で批判を行った。
3月15日 佐高氏らが中坊公平氏に公開質問状を提出。内容は(1)通信傍受法は直ちに廃止すべきだ、(2)首相秘書官古川俊隆氏のNTTドコモ株問題について、(野党などが)求めている書類を出し、きちんと説明する、(3)竹下登元首相が病床から次期衆議院選に立候補するのはおかしい、の三点。
3月21日 野党共同(民主、共産、社民、二院ク、国民会議)で、盗聴法廃止法案(正式名称「刑事訴訟法の一部を改正する等の法律案」)を参議院に提出。
 同日、中坊氏の選挙運動に対し、政府は「国家公務員法上の政治的行為の禁止、制限の規定は適用されない」との見解を発表。
 また、日本消費者連盟、原子力資料情報室、JCA-NETセキュリティ委員会、婦人民主クラブ、全国自然保護連合など20団体が記者会見。
「盗聴法の廃止を求める市民団体共同声明」に253団体が賛同。
3月27日 中坊氏は佐高氏らの質問状に対し、「いずれも今回の内閣特別顧問としての任務外の事柄に関する。私が進言を行う立場にない」と要求を拒否。
3月30日 自由党は連立与党離脱をめぐって自民党と協議をしていたが、自民党側は協議打ち切りを通告。自由党小沢一郎党首、連立離脱を最終決断。野田毅氏らは連立に留まるため独立の動き。
4月1日 小渕自民党総裁(首相)、小沢自由党党首、神崎武法公明党代表の三者会談。途中神崎氏が席を外し、小渕・小沢両氏のみとなるが、その中で小渕氏が小沢氏に連立破棄を最終通告。この夜小渕氏は脳梗塞に倒れる。
4月2日 小渕氏の病状について、古川政務(首相)秘書官から青木幹雄内閣官房長官に「疲労のため入院・検査中で心配するほどではありません」と一報。しかし病状が重い事がわかり、青木氏、野中広務自民党幹事長代理、森喜朗幹事長、亀井静香政調会長、村上正邦氏の五氏が、ホテルで会合。首相臨時代理には青木氏が、首相には村上氏の提案で森氏の就任が決定。
4月3日 青木長官が首相臨時代理となる。また、定例記者会見で、小渕氏の「病名は脳梗塞」と初めて発表。
 この日、自由党の野田毅幹事長らが、自由党から独立、保守党を結成。与党に留まるための物。
4月4日19時 小渕内閣総辞職。
4月5日 自民党の森喜朗氏が、第85代内閣総理大臣となる。
4月26日 衆議院予算委員会で、木島日出夫代議士(共産)の質問に対し、法務省刑事局長の古田佑紀氏は検察庁はDAT(digital audio tape)を使うと答弁。また警察庁刑事局長の林則清氏答弁によると、使用するDATは二、三、四GBの三種類。
5月14日16時7分 小渕恵三前首相が脳梗塞で死去、享年62。
 順天堂病院の医師団が記者会見。青木氏が小渕氏を見舞った時に「万事よろしく頼む」と言われたと説明をしていた事について、担当の水野美邦教授(脳神経外科)は「長い文章を明瞭に話す事は難しかった」「あのような文章はちょっと難しかったと推定している」説明。
 青木氏は「万事よろしく頼む」という発言を首相臨時代理就任の根拠にしていたが、これで怪しくなった。
5月17日 司法浪人生のK容疑者が、1999[平成11]年5月24日と30日に法務省の但木敬一官房長宅にボウガンを撃ち込んだ容疑で逮捕される。K容疑者は起訴され、11月22日、東京地方裁判所により、懲役3年、執行猶予5年の刑を受けた。
 但木氏の主張した「組織犯罪対策法が絡んだ嫌がらせ」という説は、取り敢えず否定された。
5月19日 民主党の江田五月氏ら9名が、青木官房長官が首相臨時代理に就任した手続きは違法だった疑いがあると主張して、有印公文書偽造や軽犯罪法違反(官名詐称)などの容疑で、青木氏を東京地検に告発。
5月20日 この日までに法務省は、組織犯罪対策を目的として、捜査協力者の刑事責任を免除する「刑事免責」や、組織的犯罪グループへの参加自体を罪とする「参加罪」など、現行法では認められていない制度の導入に着手。
5月24日 参議院本会議で、新井明国家公安委員(元日本経済新聞社会長)の後任に、読売新聞社専務(論説委員長)の荻野直紀氏を起用する人事が同意。
5月29日 横浜地裁で、神奈川県警の覚せい剤使用揉み消し事件について、責任を問われた渡辺泉郎元本部長らに対する判決。岩垂正起裁判長は「罪責は真に重大で、万死に値する」と、渡辺元本部長に懲役1年6月、執行猶予3年(求刑・懲役1年6月)など、全被告に有罪を言い渡した。被告側は控訴せず、判決確定。
6月2日 野党が提出した森内閣不信任案の審議に入らないまま、森首相は先手を打って衆議院解散。盗聴法廃止法案は自動的に廃案。(解散するとすべての審議中の法案が廃案になる)
6月11日 白川勝彦代議士(自民)が、「信なくば立たず……通信傍受法について」と題し、「通信傍受法の施行は再考しなければならないと考え」たと日記に発表。
6月13日 第42回衆議院総選挙公示。また、第18回最高裁判所判事国民審査告示。
6月25日 第42回衆議院総選挙投開票。与党は自民233、公明31、保守7、改革0。野党は民主127、自由22、共産20、社民19、無所属の会5、自連1。また無所属は15で、14人までが与党系。また、無所属の会では、明らかな与党系が2。この結果、盗聴法賛成派は田中眞紀子氏を除く与党+自由+2+14で309、反対派は残りの171となった。
 与党は全体で64議席減の敗北を喫したが、総計で271議席と、全ての国会で常任委員長を独占出来る「絶対安定多数」を確保。森政権の続投が決まった。
 なお、国民審査を受けた最高裁判所判事は、9名全てが信任された。
7月5日 エシェロンについて、フランス司法当局が産業スパイ容疑で捜査に乗り出した。欧州議会の調査では、1994年にブラジルでのレーダーシステム入札で仏トムソンCSF社の通話が盗聴されて競争相手の米レイセオン社が受注するなどの被害が報告されている。
 また、エシェロン問題を受け、欧州議会(仏ストラスブール)本会議で、欧州連合(EU)内での今後の情報保護システムを話し合う暫定委員会の設置を決定。
7月11日 アメリカの『ウォールストリート・ジャーナル』紙によると、FBI(アメリカ連邦捜査局)が『カーニボー』(Carnivore、肉食獣の意)と呼ばれる監視システムにより、インターネット・プロバイダーのネットワークに専用のコンピューターを導入し、そのコンピューターで、捜査対象の人物が送受信するすべての通信内容と記録を傍受していると報じた。
 また、アメリカ自由人権協会(ACLU)がこれを受け、時代遅れになっているオンライン・プライバシー保護法の改正を下院に働きかけた。現行法ではカーニボーを違法と出来ないため。
 さらに、第25回司法制度改革審議会で、山本勝委員(東京電力副社長)が配布した「国民の期待に応える刑事司法のあり方について(骨子)」に通信傍受の緩和やおとり調査、司法取引、刑事免責を「タブー視せずにこれらの手法も有力な選択肢の一つとして広く議論されるべきです。」とあった。
7月24日 FBIの局員らはアメリカ議会の委員会に対し、カーニボー盗聴システムの「独立機関による検証と確認」を通じて、市民的自由の擁護者たちが抱く懸念を和らげたいと語った。しかし、このシステムの仕組みに関する主要情報は明かさないという。
 この日、毎日新聞労働組合などにより、パネルディスカッション「サツ(警察)回り再考」を開催。パネラーとして参加した寺澤有氏によると、寺澤氏はコーディネーターとして参加した鳥越俊太郎氏に「(鳥越がキャスターを務める番組「ザ・スクープ」の山路徹氏が)警察から尾行されて、それをビデオに収めたんでしょ。何で放映しなかったんですか?」と質問した。鳥越氏は「テレビ朝日上層部と警察が取引した」「でも、オレは放送をあきらめていない」と答えたという。
7月26日 第26回司法制度改革審議会。法務省の古田佑紀刑事局長がフランス、アメリカなどの諸外国の検察が通信傍受などの強大な権限を持っていることから、日本の検察も権限を強化すべきと主張した。
7月28日 第149回臨時国会開会。再び野党共同(民主、共産、社民、二院ク、国民会議)で、盗聴法廃止法案を参議院に提出。
7月31日 警視庁OBが設立した興信所「株式会社東京シークレット調査会(堀内孝一社長)」に'98年11月から2000年6月までに、約80件の犯罪歴を現職の警察官に依頼して入手した疑いがあるうえ、データの一部のリストが外部に漏れた事が判明。(翌日付け『毎日新聞』に詳報)
 調査対象者は、埼玉保険金殺人事件、新潟女性監禁事件など事件の容疑者や被害者のほか、歌手、女優、タレントなど芸能人、アナウンサーなど約20人の著名人も含まれていた。
8月2日 法務省が、盗聴法による盗聴の詳細な手続きを定めた法相訓令と刑事局長通達を全国の検察庁に出した。通達は報道機関について「取材だと判明したら直ちに(傍受を)中止する」が、判明する前に「犯罪に関連する事項」が含まれていた場合は傍受を続行する、とした。
 また、この日アメリカで、プライバシー擁護団体である電子プライバシー情報センター(EPIC)が、FBIに対して、電子メール盗聴システム「カーニボー」に関する情報を公開するよう求める訴訟を起こした。EPICは、司法省とFBIに対し、情報自由法(情報公開法)に基づく情報公開を求めていたが、両者にこれを無視された事によるもの。ジェームズ=ロバートソン連邦地方裁判官は、即日訴えを認める命令を出した。
8月9日 第149回臨時国会閉会。盗聴法廃止法案は、与党の反対で再び廃案となった。
8月11日 ジャーナリストの寺澤有氏が、盗聴法は違憲だとして、国を相手取って東京地方裁判所に提訴。
8月13日 『朝日新聞』の報道で、警察庁がNTTドコモに、盗聴ソフト開発費の負担を要請していた事が明らかに。記事によれば、費用は100億近く掛かるという。
8月14日 NTTドコモが、盗聴の立会人を「事業者負担が重すぎる」として拒否。技術面での協力は維持。
8月15日 盗聴法施行(実際に効力を持つ)。
 この日、「盗聴法の施行に抗議し、同法の廃止を求める院内集会」が参院議員会館で開かれた。
 また、アメリカ連邦控訴裁判所は、インターネット形式の通信内容にアクセスする当局の能力を制限することになる判決を下した。この判決は、米政府の盗聴システム「カーニボー」にも適用される。
《第六部 次なる電子社会の規制》
2000[平成12]年 8月24日 アメリカネットワークアソシエイツ社の暗号ソフト「PGP」の新しいバージョンにバグが発見された。発見者であるドイツの暗号解読者によると、暗号化済みの情報を外部で解読出来るように細工が可能というもの。
9月12日 第30回司法制度改革審議会。法務省の房村精一司法法制調査部長が「刑事免責の導入による公判供述の確保であるとか、おとり捜査の拡充、通信傍受の拡充というような種々の捜査手段を検討する必要があるように思われます。」と主張。
9月25日 中国で、互聯網信息服務管理弁法(インターネット情報サービス管理弁法)施行。中国での本格的なネット規制の始まり。
9月29日 警視庁は警察OBの経営する興信所に犯歴が漏れていた事件について、警視庁尾久署地域課巡査部長を始めとする現職警察官3人を地方公務員法の守秘義務違反容疑で、興信所の社長と役員を同じくそそのかし容疑で逮捕した。
10月11日 アメリカの国家戦略研究所(INSS)から、アーミテージ(Armitage,Richard Lee)元国防次官補(共和)ら超党派の日本専門家グループが『米国と日本――成熟したパートナーシップに向けて(The United States and Japan: Advancing Toward a Mature Partnership)』(通称アーミテージ報告、あるいはアーミテージレポート)と題し、来年1月発足する米ブッシュ新政権に向け総合的な対日政策の報告書を公表。
 (エシェロンなどと同様の)情報衛星などを利用した自前の盗聴網構築の容認や国家機密法(スパイ防止法)の制定などを主張。
 また、米日軍事同盟を強化するため、違憲とされる集団的自衛権の容認、有事法制(戦争をするために国家の権限強化や住民の統制、物資の強制徴発などを平常時とは別に規定する)案の成立、米軍と自衛隊の緊密な連携、PKOへの全面参加、日米ミサイル防衛協力範囲の拡大などを挙げ、米英同盟に匹敵する「特別な関係」をモデルとするとした。ただ、沖縄の基地については縮小も検討するとした。経済面では、構造改革の推進や無駄な土木工事の取りやめ、電気通信分野を中心に規制緩和を推進するなど。
 ブッシュ次期政権の対日政策の基本となり、日本側の政策にも大きな影響を与えた。
10月29日 「ザ・スクープ」制作者尾行事件について、いっこうに放映されない状況で独自取材を始めていた寺澤氏に、鳥越氏は電話で「そういうやり方をしたら、この業界で生きていけないぞ」と記事にしないよう要求。
11月13日 寺澤氏と写真週刊誌『FRIDAY』取材班の舩川輝樹氏らは、事前に取材拒否された鳥越氏に突撃取材。
11月14日 鳥越氏は弁護士を通し、『FRIDAY』発行元の講談社に前日の突撃取材で行った写真撮影は肖像権侵害であるから記事に載せれば法的措置を取るとする「警告書」を送りつける。講談社は要求を無視。
11月17日 寺澤氏の記事は、この日発売の『FRIDAY』12月1日号に予定通り掲載。
11月28日 民主・共産・社民・さきがけ・二院クラブなどにより、衆参両院に盗聴法廃止法案を提出。参議院には3度目、衆議院には2度目だが、同時提出は初。
 また、この日保坂展人代議士(社民)とテレビ朝日記者の電話が盗聴されたとして東京地方検察庁特捜部に両者から告訴・告発を受けていたが、この日特捜部は、盗聴の事実を確認出来ないとして不起訴処分にした。
11月29日 参議院本会議で、改正警察法が自公保の与党及び自由の賛成により成立。主な内容は以下の三つ。(1)警察組織に対する公安委員会の監察機能強化(2)警察への苦情申し出制度創設(3)地域住民の声を反映させる「警察署協議会」設置。
 他の野党が反対したのは、警察に対する外部監査が無いなど、「公安委員会の機能強化が十分ではない」という理由による。
12月4日 鳥越氏は講談社に「通知書」を送付。抗議ではあるが、事実上告訴を断念する内容。
12月5日 東京地裁で、寺澤氏が盗聴法は違憲だとして国を訴えた裁判の初公判が開かれた。
2001[平成13]年 2月8日 法務省は昨年8月の盗聴法施行から年末までに、傍受は一件も実施されていなかった、と国会に報告する方針を固めた。
 盗聴法では、傍受令状の請求や発付件数、傍受期間やそれによる逮捕者数などの国会報告が義務づけられているため。
2月15日 政府が計画している「個人情報の保護に関する法律案」の内容が明らかに。報道機関に対する適用除外は「検討中」とした。
3月27日 政府、「個人情報の保護に関する法律案」(個人情報反古法案)を提出。報道に対する適用は除外されるが、その範囲を「放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関」が「報道の用に供する目的」に限定。
4月10日 第55回司法制度改革審議会。水原敏博委員(弁護士、元検事)が組織犯罪対策としておとり捜査の許容や通信傍受要件の緩和などを主張。井上正仁委員(東京大法学部教授)が賛成の立場で討論する一方、中坊公平委員(弁護士、元日本弁護士連合会会長)、吉岡初子委員(主婦連合会事務局長)は反対した。また、以前は通信傍受の強化に前向きだった山本勝委員は「盗聴だとか、おとり捜査だとか、司法取引だとかという、言わば荒っぽい捜査方法というは、これからも日本の司法には取り入れるべきではないと思います。」と言った。
4月18日 フリーのジャーナリストや評論家ら71名が、日本出版クラブで個人情報保護法案反対のアピールを行った。呼びかけ人は佐野眞一・吉岡忍・吉田司・宮崎学・足立倫行・久田恵・大谷昭宏・魚住昭・高山文彦・斎藤貴男・佐高信・吉本隆明の各氏。呼びかけに参加した最相葉月氏は
「遺伝子診断などで非常に微細な個人・家族の情報が特定の機関に集まる。このような個人情報の流出を防ぐのが当初目的だったはず。話が違う。知る権利を損ねる」と指摘。
4月26日 森内閣総辞職。自民党の小泉純一郎氏が、第86代内閣総理大臣となる。
4月27日 民主・共産・社民・さきがけ・二院クラブなどにより、参議院で4度目の盗聴法廃止法案を提出。
5月8日 民主・共産・社民・無所属議員の一部などにより、衆議院で3度目の盗聴法廃止法案を提出。
5月21日 アメリカ自由人権協会(ACLU)のバリー=スタインハード副理事が盗聴法廃止派の超党派の国会議員の会合で講演。
 欧州評議会(加盟43ヶ国)が策定中の「サイバー犯罪条約案」について、「適用範囲が極めて広く、加盟国の全てで犯罪と見なさない行為についても、犯罪と判断する国があればオンライン利用者に関する情報収集などで国際間の捜査協力が可能になる(MURASAME注:「双罰性(dual criminality)をその保全を行うための条件として要求してはならない」と第二十九条三項にある。自国を含めたどの加盟国でも犯罪とされる行為でないと協力しないというのを、双罰性が必要という)など強力なもの。政治的発言の自由や個人のプライバシーなどが脅かされかねない」と警鐘を鳴らした。また、昨年施行された盗聴法についても、アメリカでも当初は今の日本同様、適用範囲が限定されていたが、今やほとんどすべての犯罪に適用されるようになってしまったと重ねて警告した。
 なお、サイバー犯罪条約案は、日米もオブザーバーとして策定に参加している。
5月29日 欧州議会エシェロン調査委員会が報告書の草案を発表。NSA(アメリカ国家安全保障局)主導の国際盗聴組織「エシェロン」が間違い無く実在する事、また欧州連合(EU)加盟国がエシェロンのような盗聴組織に参加していた場合「欧州人権規約に違反する」事を指摘。エシェロンは軍事通信ではなく、個人や通商用の通信を傍受するのが目的である、と結論づけた。また、フランスとロシアが同様の傍受網を持っている可能性も指摘したが、「米英の盗聴能力は圧倒的」とも。
6月26日 ニュージーランドのエシェロン研究家、ニッキー=ハガー氏が、ニュージーランドの情報機関がオセアニア地域で日本の在外公館の外交電文を傍受している実態を発表。解読したデータはNSAに送っていたという。外務省幹部は『毎日新聞』の取材に対し「傍受されたのは簡略な電文だと思う。超極秘の外交電文を解読するのは無理だ。事情が今一つよくわからないが、日本の外交機密はしっかりと守秘されているものと確信している」と話した。
 また、「ネットワーク反監視プロジェクト」(担当責任者:小倉利丸氏)など4団体が、欧州議会の調査委員会でエシェロンの存在を確認したのを受け、日本の国会でも実態を調査するよう要望書を衆参両院議長などに提出した。
6月29日 第151回通常国会閉会。参議院で4度目、衆議院で3度目の提出となった盗聴法廃止法案は、またも廃案となった。
7月2日 東京高等検察庁検事長の原田明夫氏が、北島敬介氏の後任として、第21代最高検察庁検事総長となる。
7月12日 第19回参議院通常選挙公示。
7月29日 第19回参議院通常選挙投開票。与党は自民64、公明13、保守1。野党は民主26、自由6、共産5、社民3、他の政党は自連、二院、希望、女性、新社、無所属の会、新風などいずれも0。また無所属は3で、2人までが与党系。また、民主の当選者は、盗聴法存続を支持した羽田雄一郎氏を含む。
 この結果、盗聴法賛成派は与党+自由+2+1で87、反対派は残りの34となった。
 与党は全体で1議席増だが、改選数が5減り、また自民は前回新進で当選しながら移籍して来た候補が多かった事を考えると、与党の勝利といえる。逆に盗聴法反対派は1/3にも満たない惨敗だった。なお、MURASAMEが個人的に応援した希望の宮崎学候補は、当然落選している。
 参議院全体では、全247議席中、盗聴法賛成派が149、反対派が98となった。
8月15日 電脳突破党解散。
8月31日 盗聴法違憲訴訟で、東京地裁は通信傍受法は合憲という判決を出した。ジャーナリストの寺澤有氏が、盗聴法は違憲であり、取材にも影響したとして500万円の損害賠償と盗聴法の無効を求めて国を訴えたが、市村陽典裁判長は「通信の傍受は重大犯罪に限り、令状に基づいて行われるもので違憲とは言えない」として寺澤氏の全面敗訴だった。
9月5日 ドイツ駐留の米軍が、ドイツ南部ミュンヘン近郊のバート・アイブリングにある通信傍受基地を2002年9月30日で閉鎖することを明らかにした。この基地はエシェロンの拠点である疑いが濃厚とされている。
 また、この日、欧州議会はアメリカが表向き否定しているエシェロンが存在することを賛成367、反対159、棄権34で可決。欧州として「エシェロンが存在する」と公式に主張することが確定した。
9月9日 アフガニスタンのタリバン政権と内戦を続けている北部同盟指導者・マスード将軍が、記者を装ったタリバンの刺客に暗殺される。
 また、10月1日にアメリカ・NBCテレビが報じたところによれば、イスラム教過激派「アルカイーダ」を率いるテロリストとして知られるビンラーディン(ビンラディン、Bin Ladin)氏が、母に「二日の間に大きなニュースを耳にするだろう。私の連絡はしばらく途絶える」と電話したという。
 また、米英軍がイラクを空襲、民間人8名が殺された。

*注:国会に関する記述では、「盗聴法案」のみ年表に記した所でも、組織対策三法案全体を含む事があります。また、肩書きは全て当時のものです。

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