盗聴法シリーズ(13) 盗聴法成立史(3・成立後その2)(Ver.1.2)


《第七部 「反テロ」の名のもとに》
2001[平成13]年 9月11日 アメリカ合衆国(合州国)ニューヨークの世界貿易センタービル(The World Trade Center buildings、南北二つ)と、ワシントンD.C.郊外の国防総省(ペンタゴン)本部にテロリストにハイジャックされた旅客機が激突、世界貿易センタービルは二機の激突で崩壊した。犠牲者はニューヨークだけで2992人(うち日本人22人。ニューヨーク市当局による、2001年12月19日現在)に登った。また、ペンシルべニア州ピッツバーグ近郊でも、テロリストに乗っ取られた米ユナイテッド航空機が墜落した。
 アメリカのブッシュ大統領は、「邪悪で卑劣な攻撃により数千人の命が失われた。米国が狙われたのは我々が自由の主導者だからだ。テロリストと彼らをかくまっている者を区別して扱わない」という内容の声明を発表した。
 また、同日米国政府関係者は、アフガニスタンのタリバン政権にかくまわれているテロリストのウサマ=ビンラーディン氏が関与している可能性を指摘した。
 また、イスラエル軍は「自爆テロに関与したパレスチナ過激派の往来を断つ措置」として、ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区ジェニンの周囲に15台以上の戦車やブルドーザー、歩兵部隊を急派、一帯を封鎖した。また、イスラエル前首相のベンジャミン=ネタニヤフ氏はアメリカのテロ事件について、「イスラエルにとっては、いいことだった」と言った(後に米国人に対する哀悼の意は表した)。
9月12日 ブッシュ大統領はテロ事件について、「これは戦争だ」、「米国はあらゆる能力を傾けて、この敵に打ち勝つ」などと述べ、報復攻撃する意思を示した。小泉首相は「卑劣かつ言語道断の暴挙」とテロを批判。
 また、国際連合は、国連安全保障理事会に於いてテロ非難決議を採択した。
9月13日 小泉首相はブッシュ大統領と電話会談し、「テロと断固戦う大統領の姿勢を支持している」と米国の報復攻撃を支持、また「必要な援助と協力を惜しまない」と言った。
9月14日 米国上院は、報復のための武力行使を認める決議を全会一致で採択。また、下院でも、420対1(反対は民主党のバーバラ=リー氏)で採択された。
 イスラエルのシャロン首相は、「(PLOの)アラファトはビンラーディンと同類。違いはアラファトが権力の座に座っていることだけ」と発言、ペレス外相にアラファト議長(長官、大統領)との会談を取り消すよう指示。
9月15日 外務省の柳井俊二駐米大使と米国のアーミテージ国務副長官が米国国務省で非公式の会談。3日後、安倍晋三官房副長官が記者に伝えた所によりアーミテージ氏が柳井氏に「Show the flag(旗を見せろ)」と言ったと報道され、これは米国側が「自衛隊の旗を立てろ」、つまり自衛隊の派遣を求めたと解釈された。この結果、日本政府は自衛隊派遣を決める事になった。
 しかし『毎日新聞』12月27日号によれば、実際の発言は「Japanese national flag and face visible(日本の国旗と顔が見える支援を)」とされている。意図としてはもっとはっきりしていたが、日本政府は「Show the flag」を敢えて否定せず、テロ対策法案成立の追い風として利用したのだという。
9月16日 ブッシュ大統領は、国際テロの黒幕とされるビンラーディン氏をテロ事件の「主要な容疑者」と断定、「米国の手から逃れられると思うなら大間違いだ」「米国は戦争状態にある」として、報復攻撃を明確に宣言した。一方ビンラーディン氏は「米政府は私(を首謀者)とみなしているが、絶対にやっていない」と関与を否定。
 タリバン政権を支援しているパキスタンは、米国の意を受けてタリバン側にビンラーディン氏の引き渡しを勧告。
9月17日 アメリカのアシュクロフト司法長官は電話の盗聴対象拡大や不審な外国人の拘束などを内容とした法改正案を一両日中にも議会に提出すると語った。また、ブッシュ大統領は記者会見でビンラーディン氏暗殺を暗にちらつかせた。
9月18日 国連安全保障理事会はタリバン政権に対し、ビンラーディン氏の即時引き渡しを要求。
9月19日 小泉首相、記者会見でテロ対策の「新しい法律が必要なら検討してもらう」と述べた。また、「米国における同時多発テロへの対応に関する我が国の措置について」と題し、アメリカへの強い支持を表明。米軍補給のための自衛隊派遣や、周辺国への経済援助が主な内容。後方支援とはいえ、補給も戦争の一環であり、日本が戦後初めて参戦する意図を明らかにした。
9月20日 タリバン政権は聖職者会合(国会に相当)でビンラーディン氏の自主退去を勧告。しかし、米国ブッシュ大統領は、米上下両院合同本会議でタリバン政権にビンラーディン氏の引き渡しに加え、「アルカーイダの指導者全員を米国当局に引き渡せ」「野戦訓練施設の査察のために米国が自由に立ち入ることを認めよ」と要求を吊り上げた。これはあえてタリバン政権の呑めない条件を出して、先方の拒否を開戦の口実にしようとしたからだと思われる。他国には「米国の側につくのか、テロリストの側か、選択しなければならない」と要求、その一方で「米国の敵はイスラム教徒やアラブの友人たちではない。テロリストだ」と留保を付けた。さらに、日本が自衛隊による後方支援を行う決定を下した事を歓迎した。
9月21日 アメリカは、ビンラーディン氏をテロ首謀者と断定する証拠を示せとのタリバン政権側の要求を「捜査情報の開示はテロ組織を利する結果になる」と拒否。
9月22日 政府・与党は、テロ対策のために自衛隊を後方支援させる法案の骨格を固めた。内容は、(1)派遣に国連安全保障理事会の武力行使容認決議など新たな決議を必要としない。(2)派遣地域は戦闘行為が行われていない地域で、他国の領土・領海を含む。(3)支援業務は戦闘参加者や遭難者などに対する医療や輸送と武器・弾薬を除く補給。また被災民への援助物資の輸送など。(4)派遣の際、国会承認を必要としない。
9月23日 タリバン政権の最高指導者、オマル師はビンラーディン氏の自主退去勧告を承認。その上でタリバン広報は「ビンラディン氏の所在が不明だ。自主退去を直接勧告できない」としたが、ライス米大統領補佐官は「信用できない」と述べた。
9月25日 小泉首相が渡米し、ブッシュ大統領と会談。小泉首相は改めてアメリカの全面支持を表明、ブッシュ大統領はそれを評価するとともに、不良債権処理を断行するよう要求した。また、記者会見で、小泉首相はアメリカの記者が「米国へ金融支援を行うのか」と問うたのに対し、「全てを捧げる(everything)」と答えた。
9月27日 第153回臨時国会開会。米国へのテロを批判し、日本政府に「主体的な役割」などを求める決議(米国における同時多発テロ事件に関する決議)が、与党三党と民主党などの賛成多数で採択。自由、共産、社民三党は反対した。
 また、アナン国連事務総長は米国の攻撃が始まった場合、国内外合わせた難民・避難民は740万に達するとの推計を発表した。
10月2日 ブッシュ大統領はタリバン政権に対する「タイムテーブル(予定表)はない」「交渉はしない。カレンダーもない。我々の時間で行動する。世界の自由のためだ」として、交渉の余地なくいつでも報復戦争に踏み切る構えを見せた。一方、ザイーフ駐パキスタン大使は記者会見でビンラーディン氏の米国への引き渡しについて「交渉の余地がある」と、一転して妥協の姿勢を表明。
10月5日 テロ対策支援法案(正式名称「平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法案」)閣議決定。
10月6日 アーミテージ米国務副長官は、テロ対策支援法案の原案通りの可決を求めた。
10月8日 アメリカ合衆国が、アフガニスタンのタリバン政権に報復攻撃開始、首都カブール(カーブル)を空襲。「自衛権の発動」であるとして、国連の承認を求めなかった。ブッシュ大統領は「テロリストがアフガニスタンを作戦基地として使用するのを防ぐことであり、タリバン政権の軍事能力をたたくことである。」と攻撃の意図を説明、また世界40カ国以上の支持を受けている事、空爆と共に援助物資を投下する事を言明。その上で「すべての国が自らの立場を選ばねばならない。この戦いに中立の立場はない。もし無法者と罪なき人々の殺人者を後押しする政府があれば、その政府自身が無法者で殺人者となる。それら政府は破滅への孤独の道を歩んでいくだろう」と、中立の立場すら即敵とみなすと宣言、「われわれは平和的な国民である。」とも言った。イギリス、フランスも共に参戦。また北部同盟(アフガニスタン救国イスラム統一戦線)もこれに呼応して攻勢を強める。小泉首相はブッシュ大統領との電話会談で報復支持を表明。タリバン側は「空襲はテロ行為」と表明。
10月9日 参議院予算委員会で、大橋巨泉氏(民主)の「はっきり、いつ、だれが、だれに、どこで言ったんですか、ショー・ザ・フラッグという言葉を」との質問に対し、小泉首相は「私は、じかには聞いていませんし、新聞で知っただけです。」と答弁。
10月11日 米国ブッシュ大統領は、ビンラーディン氏のみならず他の関係者も含めてタリバンが引き渡すなら攻撃を再考するとして、さらに「イスラム社会の米国憎悪に驚いている。我々はこんなに善人なのに、人々は無理解だ。我々はイスラム教徒と戦っているのではないと、うまく説明しなければだめだ。」と言った。
 また、イラクの指導者(フセイン大統領)を悪人と呼んだ上で大量破壊兵器の国際査察受け入れを要求、またイスラエルの承認を条件に、パレスチナ国家創設支持を表明した。
10月14日 タリバン政権はビンラーディン氏がテロ首謀者と断定する証拠を示せば非イスラム教の第三国に引き渡すと米側に打診したが、ブッシュ大統領は「No Negotiation PERIOD(交渉の余地なし、以上)」と拒絶。
 また、米英軍がイラクを空襲。
10月24日 参議院外交防衛委員会、国土交通委員会、内閣委員会連合審査会。佐藤道夫氏(民主)が証拠を出せばビンラーディン氏を第三国に引き渡すというタリバン案を「当然のこと」と評価し、「あんなので起訴したらどこの国の裁判所だって無罪を言い渡しますよ」と反論すると、小泉首相は「国内の刑事裁判みたいな証拠は確かにないと思います。」と答弁。しかし「今のような形で、証拠がないからもっとゆっくりやれ、何もするなというような態度は、日本としては、また首相としてとり得ません。」と、証拠が無くてもアメリカのビンラーディン犯人説を支持すると認めた。
10月26日 アメリカで、Providing Appropriate Tools Required to Intercept and Obstruct Terrorism(テロ行為を阻止し防止するために必要な手段を提供する法、通称愛国者法[Patriot Act])が一部修正の上成立。内容は一回の令状要求で複数の電話やコンピュータ通信盗聴を可能にし、テロに関係すると判断した外国人に対する6ヶ月以内の予防拘禁(具体的な容疑が無くても捕まえられる。原案では無期限だったが、修正された)を可能にする。「テロ容疑者」の弁護士接見の盗聴容認。書店・図書館等の形に残る記録を外国諜報監視法(Foreign Intelligence Surveillance Act of 1978)適用下に置き、記録の作成、利用、そして捜査を受けた場合の秘密保持を図書館等に要求できる。ボイスメール、ケーブル回線通信等への盗聴拡大、他多数。
 ただし、盗聴強化条項の大部分、図書館等情報の利用などについては2005年末までの時限立法。
10月28日 ドイツ南部バイエルン州政府当局者が、バート・アイブリングにある米軍通信傍受基地閉鎖を2004年9月30日まで延期すると米国側から通告されたと発表。延期はテロ対策の盗聴に重点を移すためと思われる。
10月29日 参議院本会議で、停船命令に従わない不審船への船体射撃を認める内容の海上保安庁法改正案、テロ対策支援法(正式名称「平成13年9月11日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法」)、自衛隊法改正案が共に成立。海上保安庁法改正案は社民と無所属の一部を除く賛成(社民は山本正和氏が造反して賛成)、テロ対策法は与党と一部無所属、自衛隊法改正案は与党に加え、民主(大橋巨泉氏ら一部棄権あり)と一部無所属が賛成した。
 自衛隊法改正は、防衛庁長官が「防衛秘密」と定めた情報を洩らした者への大幅な罰則強化など、かつて廃案になった国家機密法案(スパイ防止法案)の要素が強い内容。
10月31日 フランス国民会議(下院)で、テロ対策法が成立。無令状でのテロ事件捜査を認めるほか、2003年末までの時限立法。
10月末 イギリスの日曜紙『サンデー・テレグラフ』に拠れば、この頃ビンラーディン氏の肉声ビデオが発見される。テロ事件の犯人が自分達の組織であると認めた内容(ただし、一部編集されているので、本当は単にテロ事件を評価する感想を述べただけとの説もある)。
11月8日 欧州評議会が、サイバー犯罪条約を採択。ネットワークへの不正アクセス、盗聴、データ破壊、改竄などのハッキング行為、関連犯罪として児童ポルノ関連犯罪、著作権侵害を取り締まり、加盟各国で協力するよう求める内容。
 条文では盗聴法の制定を求め、また条約で取り締まりの対象となる罪の範囲が広い上、要請国で罪になる内容ならば、相手国では罪にならない内容でも協力を拒否出来ない。このため最も盗聴権限の強い国に加盟各国が合わせられてしまう。さらに、プロバイダー(商用だけでなく、LANを含めたコンピュータネットワークを組んでいる全ての法人・個人を含む)は政府による協力要請を拒否出来ない。
11月10日 ブッシュ大統領がニューヨークの国連総会で演説。
 テロとの戦いの「行動の時が来た」として世界各国の協力を求めるとともに、パレスチナ問題は「イスラエルとパレスチナの二つの国」を作ることが解決につながるとして、パレスチナ・アラブ側に一定の配慮を見せた。
11月13日 タリバン政権が首都カブールから戦わずして撤退、北部同盟が占領。
 ブッシュ大統領は、外国人のテロ容疑者を自国の軍事審問委員会で裁くことを認める大統領令を出した。通常の裁判と異なり、非公開で、かつ米国外でも行える。また、被告人は弁護士を選べず、判決に控訴(上告)出来ない一審制。
11月14日 アシュクロフト米司法長官は通常の刑事裁判や国際軍事法廷でなく、米軍の軍事裁判で外国人テロリスト容疑者を裁くことへの批判に対し、「9月11日の(テロ)実行犯や支援者たちは戦争犯罪を犯したのであり、米国憲法の庇護(ひご)を受けるには値しない」と述べた。ハーバード大学法学部のスローター(Slaughter, Anne-Marie)教授ら法学者は「連邦ビルを爆破して168人を殺したティモシーマクベイはアメリカ人(かつ白人)だという理由で通常の裁判を受けられる権利が守られるのにアメリカ人以外の人、とくにムスリムが容疑者なら証拠を示すことなく軍事法廷で処刑できると言っているようなものでアメリカの憲法の精神を政府自らが踏みにじるような措置だ」と批判。
11月16日 アフガニスタンで、ラマダン(イスラム教の断食月、日出から日没までに限り断食する。水や煙草なども不可。最も神聖な月とされる)入り。天体観測で新月となったのを実測して初めてラマダン入りと判定するため、地域によって多少のずれがある。米軍は空襲続行。(11月24日、サウジアラビアの指導省副大臣が「国内すべてのイスラム教指導者が反対している」と批判表明)ラマダンは12月15日まで。
11月19日 アメリカ『USA Today』紙は、米国防総省が国際テロへの戦いの新たな段階として、イラクへの大規模な爆撃作戦を立案していると報じた。
11月23日 日本がサイバー犯罪条約を署名。条約に合わせて、刑事訴訟法など関連法の改正を目指す。盗聴法も飛躍的な強化がされる危険性が濃厚。
11月25日 アフガニスタン北部マザリシャリフ近郊にあるカラハンギ要塞にある捕虜収容所で、北部同盟によるタリバン外国人義勇兵捕虜尋問中、捕虜が暴動を起こす。北部同盟の要請を受けた米軍は周囲を空襲、捕虜ほぼ全員(400人とも、600から700人ともいわれる)が殺され、北部同盟側も約40人(100人とも)が犠牲となった。CIA工作員・ジョニー=マイケル=スパン氏(暴動で殺された)が尋問に加わっていたのに怒ったのが暴動の原因という。なお、スパン氏は、米軍初の戦死者。
 また、イギリスの日刊紙サンデー・タイムズが英米両国政府高官筋の話として報じたところによると、対テロ戦争はアフガニスタンでの作戦が終わり次第、テロ組織アルカイダの指導者ビンラーディン氏とつながりを持つソマリア、スーダン、イエメンの3国を標的にさらに拡大される見通しとした。
11月26日 ブッシュ大統領は、イラクが大量破壊兵器廃棄をめぐる国連査察を拒否している事を理由に査察の受け入れが無ければ攻撃すると示唆。また、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)などを念頭に、実際にテロに関与しなくても、大量破壊兵器の開発目的によっては、テロとの関連で懲罰対象として攻撃すると示唆した。
11月27日 ドイツのボンで、タリバンに代わる新政権の内容を協議するアフガニスタンの各派代表者会議(ボン会議)開幕。反タリバン連合(北部同盟)の権力独占を防ぐため、各派連立による暫定政権の樹立を促すのが目的。タリバンは残党も含め、排除する方針。ヘクマティアル元首相派も排除された。
12月4日 民主・共産・社民などにより、参議院で5度目の盗聴法廃止法案を提出。
12月5日 ボン会議で、国連が提示した最終合意書に各派代表者が調印。アフガン最大民族であるパシュトゥン人の指導者、ハミド=カルザイ氏が連立による暫定行政機構議長(首相に相当)となる。カルザイ氏は国王派だが、親米派としても知られていた。また、政体は共和制。
12月7日 参議院本会議で、自公保と民主などの賛成により改正PKO法が成立。国連平和維持軍(PKF)本体業務への参加凍結解除と派遣隊員の武器使用基準の緩和が主な内容。また、第153回臨時国会閉会。盗聴法廃止法案は、またも廃案。
 タリバンが本拠地カンダハルを撤退、アフガニスタン暫定政権のカルザイ議長は「タリバン勢力による支配は終わった」と宣言。翌日撤退完了、タリバンは政権としての体を失う。
12月8日 米上院で、米軍要員保護法が成立。国際刑事裁判所(ICC)への協力を禁止する内容。訴追対象から米兵が除外される確約がない限り、国連の平和維持活動(PKO)に参加しない、米国領土での捜査活動は禁止、ICC条約を批准した国に対しては、共同訓練も含む米国の軍事援助を停止、米兵が戦犯容疑で拘束された場合、軍事行動を意味する「必要なあらゆる手段」を取る権限を大統領に付与するなど、極めて身勝手な内容。
12月9日 米軍はビンラーディン氏が潜伏しているとされるトラボラに、特殊大型爆弾BLU82(通称デージー・カッター)投下するなど激しい空襲。その後も攻撃を続行。
12月13日 米国防総省は、ビンラーディン氏が犯行告白したとされるビデオを公開。
12月19日 この日までに自衛隊は、米軍から偵察衛星に基づく情報により、3隻の不審船が北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を出港したとの通報を受ける。この日、自衛隊電波部が不審船の通信を傍受、電波の内容から北朝鮮の不審船との見方を固めた。
12月20日 イギリスの日刊紙『ガーディアン』のネット版によると、米ニューハンプシャー大学のマーク=ヘロルド教授(経済学)がこれまでの報道や国連の報告、目撃者の証言などを合わせた推計から、少なくとも3767人の民間人が米軍の空襲で死亡したと算定した。もちろん、タリバン側の戦死者や飢餓などによる死者は含んでいない。
12月21日16時 海上自衛隊のPC哨戒機が、19日に自衛隊が通信傍受したのと同じ海域で不審な船を見つけて写真を撮影。こちらでも北朝鮮の不審船と断定。
12月22日 海上保安庁の巡視船「きりしま」「あまみ」「いなさ」との銃撃戦の末、不審船が沈没。追跡開始地点は鹿児島県・奄美大島西北西約324kmで、日本の排他的経済水域(沿岸から200カイリ(360km)の漁業専管水域)だが公海上。沈没時は中国の排他的経済水域に逃れていた。中谷元防衛庁長官は北朝鮮の工作船との見方を発表。
 日本側は不審船の反撃で2名が重傷。また、不審船の乗組員15名は全員水死したとみられる。海上保安庁は「自沈の可能性がある」と発表。
 この日、アフガニスタンで、カルザイ議長率いる暫定政権が発足。
12月24日 不審船沈没についての記者会見で「きりしま」の堤正己船長は「『いなさ』の砲撃をまともに受けていて、あっという間に沈んだ。海難のような普通の沈み方とは違う。見ていた船員が『爆破しているような感じ』と言った」と証言。ただ、「不審船自体から爆発したような感じを受けたか」との質問には「肉眼では確認できなかった」とも応えており、自沈かどうかはわからない。
12月27日 カルザイ議長はタリバンに対する米軍の空襲停止を申し入れるが、ブッシュ大統領は翌日拒否。
12月28日 警察庁が、2002年4月以降、電子メール盗聴のための仮メールボックスを14都道府県警に配備することが明らかに。
 盗聴法に基づくもので、配備されるのは北海道警、宮城県警、警視庁(東京都)、埼玉県警、千葉県警、神奈川県警、静岡県警、愛知県警、京都府警、大阪府警、兵庫県警、広島県警、香川県警、福岡県警、関東管区警察局。
2002[平成14]年 1月4日 小泉首相は年頭の記者会見で、有事法制について「今年、通常国会において真剣にこの問題を議論し、できることから法整備を進めていきたい」と言った。これは、日本が現実に戦争をする、またはされる前提に立った事を意味する。
1月29日 ブッシュ大統領は連邦議会上下両院合同本会議で今年1年の施政方針演説に相当する一般教書演説を行った。北朝鮮、イラン、イラクの3か国を「こうした国やテロリストが、世界の平和を脅かす悪の枢軸を形成している」と名指しで非難、大量破壊兵器開発を警告した。なお、イランを加えたのは、イスラエルの働き掛けがあったからといわれている(『中日新聞』2月3日号)。
1月30日 寺澤有氏が国を訴えた盗聴法違憲訴訟の控訴審で、東京高裁は再び寺澤氏の訴えを棄却。伊藤瑩子裁判長は「通信の傍受は、裁判官の発布する傍受令状を得て行われるものであり、一般的かつ無限定な傍受が行われる建前となっていない。通信当事者のプライバシーの侵害は小さい」として盗聴法を合憲とした地裁判決を支持した。寺澤氏は上告の方針。
1月31日 ブッシュ大統領は大量破壊兵器開発国に対し「世界各国は米国と連携する必要がある」として、名指ししないものの、前日「悪の枢軸」と非難した三国への包囲網を築くよう訴えた。
1月下旬 警視庁薬物対策課が、インターネットの携帯電話サイトの書き込みに「S(覚醒剤を指す)あります」とあった事から、連絡先の電話番号への傍受令状を東京地裁に請求。認められ、10日間盗聴した。公にされたものでは、これが盗聴法の初適用。
 『毎日新聞』茨城版2005年4月14日号によると、検察では東京地検刑事部長の山本修三氏が事件を指揮したという。
2月5日 米英軍、イラク側に対空兵器で攻撃されたとして空襲、国営イラク通信によれば民間人4人が死亡。
2月7日 ブッシュ大統領は、タリバン兵に限りジュネーブ条約を適用すると発表。しかし適用されるのは兵士の人道的待遇などを定めた部分だけで、同条約で取り調べに制限がかかるなど各種権利を保障された戦争捕虜としての身分は認めないという。米人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は「ジュネーブ条約で規定されている裁判を開くことなく、戦争捕虜の身分を排除するのは間違っている」と批判した。
2月8日 法務省は、昨年1年間も1件も通信傍受法による傍受が実施されなかったと発表。また、閣議で森山眞弓法務相も同様の報告を行った。これで施行以来、公式には盗聴件数0。村井仁国家公安委員長は閣議後の記者会見で「法制定時に相当厳しい縛りをかけた。『他に手段がない』という実施要件がかなりきつい」と感想を述べた。
2月15日 東京・永田町の議員会館で、福島瑞穂氏(社民)、枝野幸男氏(民主)、川田悦子氏(無所属)、緒方靖夫氏(共産)ら12名の超党派の国会議員の呼びかけにより、エシェロンに関する勉強会を開催。講師のイルカ=シュレイダー議員(ドイツ)はEU(欧州連合)議会の特別委員会が昨年6月に存在を公式に認めた報告書の作成に携わった。シュレイダー氏は「エシェロンは人権に対する大きな脅威だ。廃止しかない」と主張した。
2月18日 来日中のブッシュ米大統領は小泉首相との記者会見で「悪の枢軸」と名指しした三国、特にイラクに対し、「われわれが関与するのはアフガニスタンだけではない。歴史は米国に自由を守るための機会を与えた。われわれは機会をとらえて行動を起こす」といつでも攻撃すると改めて示唆した。小泉首相は「テロに対する大統領の毅然とした態度を示している」とこれを支持。
3月1日 米英軍は、アルカーイダの兵士とその家族らが潜伏しているとされるアフガン東部パクティア州アルマ一帯に激しい空襲(「アナコンダ作戦」)。13日の攻撃終了までにアルカーイダ側の戦死者700名以上、米軍の戦死者8名、米軍側アフガン部隊の戦死者は3名にのぼった。
3月9日 米『ロサンゼルス・タイムズ』紙がブッシュ政権が国防総省に対し、イラク、北朝鮮など少なくとも7カ国を対象に、非常時の場合の核兵器の使用計画策定と、より小型の核兵器を開発するよう命じていたと報じた。同紙が入手した国防総省の機密文書に拠る物で、対象国は他に中国、ロシア、イラン、リビア、シリア。国防総省側は機密扱いになっていることを理由にコメントを拒否。
3月18日 『毎日新聞』によると、ダンカン=キャンベル氏の調査で、エシェロンを統括するNSAが海底の光ファイバーケーブルの盗聴計画に着手した事がわかったという。米軍側は機密を理由に回答拒否。
3月30日 この日までに、警視庁薬物対策課は川崎市の暴力団員らを覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕。1月下旬に行った、盗聴法の初適用による盗聴捜査により容疑者を特定したという。ただし、「捜査継続中」として、盗聴の事実や容疑などの具体的な内容は公式には明らかにしていない。
4月2日 村井仁国家公安委員長は記者会見で、先に初適用が発表された盗聴法について「もっと使いやすくあっていい」とより積極的な盗聴を出来るよう主張。
4月12日 『毎日新聞』が社説で、村井氏の盗聴法改正論を「説明責任も果たさぬ段階での改正論などは言語道断」と批判。
4月17日 小泉政権は、有事法制三法案(正式名称はそれぞれ「安全保障会議設置法の一部を改正する法律案」、「武力攻撃事態における国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」、「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律案」)を衆議院に提出。
4月18日 経済産業省は「サイバー刑事法研究会」(座長・山口厚東京大学教授)の報告書を発表。欧州評議会の「サイバー犯罪条約」に日本もオブザーバーとして2001年11月に署名したが、同条約の求める「通信内容のリアルタイムでの収集」が現行の盗聴法に触れる可能性があるとしている。暗に盗聴法を改正して盗聴範囲を拡大せよと説いているとも取れる。
4月24日 政府、人権擁護法案を衆議院に提出。しかし、人権擁護委員会が法務省の外局であり、法務省に対する監視が望めないこと、メディア規制が盛り込まれたことなどの問題点が指摘された。
4月29日 村井仁氏が『毎日新聞』に「通信傍受は組織犯罪に有効」と題する寄稿で社説に反論。
5月23日 警視庁薬物対策課は、盗聴法の初適用を正式発表。警察側発表によれば、暴力団幹部のN容疑者始め9名を覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕。1月下旬から2月上旬にかけて通信傍受を行い、23日までにN容疑者らに通知したという。
6月11日 5月に盗聴法初適用を公表した覚醒剤事件について、東京地方検察庁はN容疑者の訴因を刑の重い麻薬取締法違反(麻薬を売った容疑)に変更。
7月19日 総務省は、8月5日に稼動を予定している住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット、国民総背番号制)について、22日から仮運用を実施すると発表。
7月26日 住基ネットについて、弓削達・東京大名誉教授やジャーナリストの斎藤貴男氏ら6名が「プライバシーの侵害」であるとして国を東京地裁に提訴。
7月27日 「情報ネットワーク法学会」の設立総会が東京都千代田区の明治大学で開催。チューリッヒ大学のクリスチャン=シュワルツネッガー教授がサイバー犯罪条約をテーマに講演した。立山紘毅・山口大学教授はディスカッションで、「特に日本の場合、例えばプライバシー保護に関するOECD8原則に十分沿った国内法はまだ整備されていない。その一方で、国民に対する監視を強化する規制は、協調的に行われる傾向があり、注意が必要だ」と指摘。
8月2日 警察庁次長の佐藤英彦氏が、第19代警察庁長官となる。
9月17日 小泉首相は北朝鮮の平壌で金正日国防委員長・朝鮮労働党総書記と初の日朝首脳会談。金氏は従来否定して来た日本人拉致を初めて公に認め、「4人生存、8人死亡」を伝え、謝罪した。しかし「特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義」に走った結果であると主張し、自らの関与は否定した。また、日朝平壌宣言を行った。
11月28日 神奈川県警薬物対策課などが、盗聴法による電話盗聴により薬物密売組織のイラン人3名逮捕。薬物対策課発表によると、容疑者が携帯電話を使って末端の密売人に指示を出している事実をつかみ、横浜地裁から盗聴法に基づく令状を取って携帯電話の会話を傍受、記録したという。盗聴法適用の2例目。
12月6日 民主・共産・社民などにより、参議院で6度目の盗聴法廃止法案を提出。しかし、またも審議未了で廃案。
2003[平成15]年 1月10日 北朝鮮、核拡散防止条約(NPT)と国際原子力機関(IAEA)からの脱退を表明。
1月20日 第156回通常国会開会。
2月14日 森山眞弓法務相が、通信傍受法による傍受を2002年は2件実施したと国会に報告。警視庁と神奈川県警による盗聴を指す。
3月 2日 イギリス・ロンドンの『The Observer(オブザーバー)』紙によると、アメリカがイラクへの武力行使を容認する国連審決議案を成立させる為、国連安保理理事国の代表団の電話や電子メールを盗聴、傍受していると報道。NSA高官が秘密工作員に宛てて盗聴を命じた1月31日付の「極秘」の電子メールを入手したという。
(http://www.observer.co.uk/iraq/story/0,12239,905936,00.html、英語)
3月18日 アメリカは国連安保理でのイラクへの武力行使容認決議裁決を断念。ブッシュ大統領はイラクへ最後通告を行い、また「国連安保理はその責任を果たさなかった。」と批判。
3月20日 アメリカ合衆国は、イギリス、オーストラリアと共にイラク侵略開始。小泉首相は即日イラク侵略支持を表明。
3月24日 法務省が、法制審議会でサイバー犯罪に関する対策法案の要綱を諮問。コンピュータウィルスの製造、提供、わいせつ画像の不特定多数への配布に罰則を設けた他、プロバイダに対し電子メールなど電磁的記録の「送信元、送信先、通信日時、その他の通信履歴」を最大90日間消去しないように求める保全要請など、捜査への利用項目も盛り込んでいる。
4月 9日 米軍、イラクの首都であるバグダッドを占領。イラク・フセイン大統領は逃亡したと見られるが生死不明。
4月15日 衆議院個人情報の保護に関する特別委員会で、保坂展人氏(社民)の質問に対し、警察庁の栗本英雄氏は携帯電話の通信履歴や位置情報などの取得を「検証令状で必要な情報を得るということはあり得るかと思います」と答弁。
 また、法務省刑事局長の樋渡利秋氏は実際に令状が出された事を認めた。
4月17日 衆議院個人情報の保護に関する特別委員会で、法務省樋渡氏の答弁により、携帯電話の通信履歴盗聴のための令状発行が盗聴法による規制の範囲外で行われていた事が明らかに。
4月18日 衆議院法務委員会で、森山眞弓法相(自民)は「携帯電話の位置情報や通話記録は、通信内容自体ではない」と法務省見解を追認する答弁。
4月24日 衆議院武力攻撃事態への対処に関する特別委員会(有事法制特別委員会)で、石破茂防衛庁長官(自民)は木島日出夫氏(共産)の質問に対し、アメリカのイラク攻撃は侵略とは思っていないと前置きした上で、「前提がそうであったからこの法律が発動できないとか法律が発動できるとかいう議論を私はするつもりはございません。」と答弁。「アメリカが日本の周辺国を先制攻撃して、相手国が日本も攻撃するぞと意思表示をした場合」という木島氏の想定を超えて、アメリカが戦争すれば無条件で有事法制を適用できると認めた。
4月25日 北朝鮮、核保有を宣言。
5月 1日 米ブッシュ大統領は、イラク侵略について大規模な戦闘作戦の終結と「戦闘での勝利」を宣言。しかしイラク側の抵抗は続く。
5月13日 参議院個人情報の保護に関する特別委員会で、世耕弘成氏(自民)が個人情報保護法案への反対論について、盗聴法を引き合いに出し「(通信傍受法で) 指摘されたような問題が起こったという話は何もない」と主張。
5月23日 参議院本会議で、個人情報保護関連五法が自民、公明、保新の与党三党などによる賛成多数で成立。
6月 6日 参議院本会議で、有事法制三法が与党三党と民主、自由などの賛成多数で成立。また、出会い系サイト規制法も与党三党などの賛成多数で成立。
6月27日 民主・共産・社民などにより、参議院で7度目の盗聴法廃止法案を提出。しかし、またしても審議未了で廃案。
6月29日 社会の監視化に貢献した技術や個人、団体などを風刺を込めて「表彰」するBig Brother賞の日本版が初開催。ビッグブラザージャパン2003大賞は住基ネット(住民基本台帳ネットワーク)。
6月30日 東京の参議院議員会館で、サイバー犯罪条約の批准に反対する野党議員らが中心になって、同条約に関する学習会が開催。米国の人権団体「アメリカ自由人権協会」のクリストファー=チュー氏、英国に本部がある反監視団体「プライバシー=インターショナル」のガス=ホセイン氏を講師に招き、議員や市民ら約40人が参加した。
7月3日 衆議院イラク人道復興支援並びに国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会で、保守新党の山谷えり子氏がアメリカが9/11大規模テロ後素早く包括テロ対策法を制定したと指摘し、その内容として通信傍受も列挙。これに対し、福田康夫内閣官房長官は「今現在は現行法をフル稼働するというような形でやっておりますけれども、そういう体制で今後いけるものかどうか」として、与党の議論などを注視すると答弁。
7月11日 自民、衆議院に児童ポルノ・買春禁止法改正案を提出。
7月24日 民主・共産・社民などにより、衆議院で4度目の盗聴法廃止法案を提出。
7月26日 参議院本会議で、イラク特措法(イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法)が与党三党などの賛成により成立。
7月28日 第156通常国会閉会。
9月19日 東京地裁で盗聴法を初適用した覚醒剤密売事件の判決。村瀬均裁判長はN被告に対し、懲役5年6ヶ月、罰金80万円、追徴金42万9000円の有罪判決を言い渡した。公判で弁護側は通信傍受の是非は争わなかった。
9月26日 第157回臨時国会開会。また、民主党と自由党が合併し、民主党に合流。第157回臨時国会開会。
10月2日 社民党が「3つの争点 8つの約束」を掲げた次期衆議院総選挙公約発表。盗聴法廃止も人権の項に掲げる。公明党も「政策綱領マニフェスト100」を発表するが、盗聴法には触れず。
10月3日 保守新党が次期総選挙に向けた「実現を目指す10の重点政策」を発表。盗聴法には触れず。
10月5日 民主党と自由党の合併党大会。民主党は総選挙のマニフェスト(数値目標を掲げた宣言、公約)で盗聴法「廃止」から「凍結」に後退。
10月7日 自民党、次期衆議院選挙に向けた「重点施策<2004>」発表。盗聴法に直接は触れていないが、「サイバー犯罪条約の早期締結に向け、国内法の整備の推進に努めます」としており、事実上盗聴法の強化を盛り込んでいる。また、自民党結党以来の党是であった「自主憲法の制定(改憲)」を岸信介氏以来43年ぶりに総選挙の争点に打ち出した。
10月8日 共産党、「総選挙にのぞむ政策」を発表。盗聴法には触れず。
10月10日 参議院本会議で、自民、公明、保新の与党三党の賛成多数により、テロ対策特別措置法を2年間延長する改正案が成立。米英軍に対する燃料補給などの軍事支援を継続するためのもので、11月1日で期限が切れる予定だった。
 また、この日衆議院本会議で、衆議院が解散され、第157回臨時国会閉会。実質総選挙に突入。衆議院に提出されていた4度目の盗聴法廃止法案は、自動的に消滅した。(他、人権擁護法案なども)
10月28日 第43回衆議院総選挙公示。
11月6日 この日、愛知県警銃器薬物対策課が、覚せい剤密売グループの捜査で、薬物犯罪などに限定して盗聴法による捜査を行っていたことが判明。全国で3例目。県警は昨年から、愛知県岡崎市などでイラン人ら外国人組織を覚せい剤の密売容疑で捜査を進め、一部を逮捕。8月頃名古屋地裁の令状を得て、携帯電話の通信内容を盗聴した。
11月9日 第43回衆議院総選挙投開票。
 与党は自民237、公明34、保新4。野党は民主177(うち旧自由系23)、共産9、社民6、無所属の会1、自連1。また無所属は11で、9人までが与党系。うち2人は8日付にさかのぼり自民追加公認。与党は全体で11議席減らしたものの、総計で277議席と、「絶対安定多数」を確保。
 この結果、盗聴法賛成派は与党+民主内自由系+9で307、反対派は残りの173となった。盗聴法賛成派は前回選挙より2減、選挙前より9減と微減だった。
11月21日 政府の国民保護法制整備本部(福田康夫本部長)は、有事法制に基づく国民の避難・救援手続きなどを定める国民保護法制の「要旨」を決めた。戦争の他、大規模テロ発生時も対象となる。都道府県知事などに平時よりあらかじめ戦争に備えることを命じた他、有事には警報発令、避難・救援の指示、原発事故や放射性物質による汚染の未然防止措置などが明記され、知事に強制執行を認めた。一方で都道府県や市町村の自主的判断に委ねず、知事が執行を拒否した場合は国が直接住民に指示できる「代執行権」も付与している。また、違反者には罰則も科せられる。
 さらに、有事の際に国への協力を求められる「指定公共機関」に、民放や民間航空会社を含めるとした。
11月29日23:00頃
(現地時間17:00頃)
 イラク北部のティクリット付近を移動中、何者かの銃撃を受け奥克彦在英国大使館参事官と在イラク大使館の井ノ上正盛書記官、イラク人運転手のジョルジース=スレイマーン=ズラ氏が殺された。
12月1日 政府の青少年育成推進本部(小泉純一郎本部長)作成の青少年育成施策大綱の原案によると、従来認められていなかった14歳未満の容疑者に対する警察の捜査権限の強化や14歳未満には認められていなかった有罪時の少年院送致の検討を発表。また、インターネット上の「有害情報」対策として、児童ポルノやわいせつな画像などの送信を取り締まる新法制定の検討を求めた。
12月26日 イラク派兵への航空自衛隊の先遣隊第一陣が成田空港を出発。医薬品や食糧など人道支援物資の空輸業務を行うという。事実上戦時下の地域へ派兵されるのは戦後初。
2004[平成16]年 2月4日 共同通信によると、千葉県警薬物対策課が昨年11月、宅配便を使った覚せい剤密売事件に盗聴法を適用し、暴力団関係者の携帯電話の通話を盗聴していた事が判明。全国で4度目の盗聴法適用。
2月20日 政府は、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案を衆議院に提出。サイバー犯罪条約に対応し、犯罪を計画しただけで(未遂以前の段階で)逮捕できる、「共謀罪」を新設。他にプロバイダーに対するログ保全および裁判所によるログ差し押さえの義務づけ、コンピュータウィルス作成・頒布罪の新設、強制執行の妨害に対する罰則強化などを盛り込んでいる。
3月18日 衆議院外務委員会で、サイバー犯罪条約について、末松義規氏(民主)の質問に対し、法務省の樋渡氏は「今回の条約に基づく我が国の法整備では、通信傍受については何らの改正を行うものではございません」と答弁。また、外務省大臣官房審議官の門司健次郎氏は、「外国から要請があった場合には、まさに自国の国内法によって認められる範囲内でやる」と答弁。共産党の赤嶺政賢氏も盗聴法との関連を質問した。
3月19日 衆議院内閣委員会で、警察庁の吉村氏、泉健太氏(民主)に予算減少はなぜかと質問され、答弁の中で盗聴法を例に挙げ、必要なところには予算を使うべきとは思います、と答えた。
3月26日 衆議院外務委員会で、サイバー犯罪条約承認案が通過。共産、社民が通信傍受の強化などを理由に反対。
3月29日 京都府警、下鴨警察署交番勤務の男性巡査が捜査関係書類をインターネット上で漏洩していたと発表。
 巡査は私用のパソコンでファイル交換ソフト「Winny」を使用しており、Winnyを経由して感染するウィルス(通称「キンタマウィルス」)により情報が流出したといわれる。
 WinnyはP2P(Peer to Peer)技術を利用したソフトで、不特定多数の個人で直接ファイル交換が出来、匿名性が高いのが特徴。
4月5日 『讀賣新聞』サイトによると(紙面では6日に報道)、米司法省はIP電話などのネットを利用した通信の盗聴を容易にするため、傍受装置を容易に取り付けられるシステム整備を通信事業者に義務づける方針を決めた。同紙は「通信傍受法に基づいて2000年から傍受ができるようになった日本でも この先、同様の対応を迫られる可能性がある。」と、暗に盗聴法強化を促している。
4月8日20時30分 政府、与党筋(恐らく公明党議員を含む)によると、イラクで郡山総一郎氏、今井紀明氏、高遠菜穂子氏の3人が人質にされたと発表(第一報は日本時間20:13、カタールの放送局アル=ジャジーラ)。犯人グループは「サラヤ・アル・ムジャヒディン(戦士旅団)」を名乗り、3日以内の自衛隊撤退を要求、さもなくば人質を殺すと脅した。
20時43分 「2ちゃんねる」に初めて自作自演説が出る。
バクダットで日本人拘束)もっとも、「朝鮮人」「左翼」「プロ市民」(通常、市民運動家を職業活動家と揶揄したもの)などが被害者となる事件が発生すると、2chで決まって書き込まれる主張であるため(しかし、その通りだった事例はない)、今回もその延長に見えた。ところが………。
20時45分 2chで初めて「自己責任」との主張が出る。
22時9分 2chに今井氏が高遠氏の掲示板に書き込んだと称する「ヒミツの大計画」が書き込まれる(高遠氏の掲示板はすでに荒らしのため閉鎖していた)。「そのうち日本でもニュースになると思うから」等、自作自演を示唆する内容だったため、各所でこれらを根拠に被害者へのリンチが展開された。しかし後に、今井氏の他の書き込みと文体が異なること、高遠氏の掲示板を荒らした批判者の誰一人としてこの「書き込み」に気づいていないことなどから、被害者を陥れるための捏造文書であることがほぼ確定した。
イラク人質事件:「自作自演」説はどのように出てきたか
捏造文書「ヒミツの大計画!」を追うなど参照)
4月9日11時30分過ぎ 小泉首相、自衛隊の撤退を拒否。
 午後、被害者家族たちは「三人の救出のため自衛隊撤退を」と訴えた。
 夜、福田康夫内閣官房長官はオフレコで 「なんでテレビ局は、3人の出国前の絵(=映像)を持ってるんだ?(3人やその家族が)自分から売り込むのか? 妙だよなぁ」と、暗に自作自演を主張。
4月10日 『讀賣新聞』は社説で人質を「無謀」「自らこうした事態を招いた責任がある」と批判。また、『産經新聞』のコラム「産經抄」で石井英夫氏は「自己責任の自覚を欠いた、無謀かつ無責任な行動が、政府や関係諸機関などに、大きな無用の負担をかけている。深刻に反省すべき」と主張。被害者家族たちはアラブ首長国連邦の衛星テレビ、「アルアラビーヤ」のニュースビデオの収録など、人質解放の訴えを行った。
 与党・自民党と公明党は自衛隊撤退拒否を支持。民主党は即時撤退要求を否定。共産党と社民党は即時撤退を訴えた。
 共同通信社が9〜10日に実施した輿論調査によると、撤退拒否について「支持しない」45.2%、「支持する」43.5%だった。
4月11日未明
(現地時間10日夜)
 人質拉致の犯人グループ、24時間以内の解放を発表。イスラム聖職者の呼びかけに応えたものという。
 自民党の安倍幹事長は、広島県呉市で、「要求を受け入れれば、『日本を脅せばいい』とテロリストが考えるようになると判断し、自衛隊を撤退させないと決断した。この決断で、テロリストは3人を釈放するという判断をした」と自画自賛。しかし、この時点で解放は実行されていなかった。
4月12日 外務省の竹内行夫事務次官は、イラクは退避勧告が出ているとして、人質を「邦人保護に限界があるのは当然だ。自己責任の原則を自覚してほしい」と批判(ただし、法的拘束力はない)。
4月13日 衆議院総務委員会で、サイバー犯罪条約承認に関連した、電波法改正案の審議。山花郁夫氏(民主)が、電波法改正案では暗号化された無線通信の傍受、復元に罰則規定が設けられたが、盗聴法では純粋な無線通信は対象外である。そこで、(通信傍受法に)賛成してはいないけれどもと断った上で、捜査の目的で「ブロックが何重にもかかっているのを一生懸命捜査の必要があるということで解くということも、これは全く今令状などの規制がない」のはおかしいと質問。実川幸夫法務副大臣は逃げたが、麻生太郎総務大臣は「任意とはいえ一方的にやられていると言われて、何となくちょっとすっきりせぬかなという感じが率直なところです」と答弁。
 同日、政府は「事件の特殊性にかんがみ」イラク日本人人質事件についての取材拒否を発表。しかしその裏で、共同通信によると、「まるで日本人が書いたような違和感を持つ部分が多すぎる」と官邸筋(官房副長官か総理秘書官を指す)がコメントしたという。
 高遠菜穂子氏の母は、自宅前で記者会見し、上京している菜穂子氏の弟と妹について「二人が会見で感情的な発言をして誤解を招いたようで、大変申し訳なく思う。声を荒立てたことを、いさめることができないもどかしさを痛感しています」と何度も頭を下げた。
 また、被害者家族の元へ、無言電話や「自業自得」と書かれたファクスなどが数十件寄せられたという。ただし、宮台真司氏によると「現実には8割以上が応援ファックス」にもかかわらず、それは報じられなかったという
右翼思想からみた、自己責任バッシングの国辱ぶり)。
4月14日 被害者家族は、東京・有楽町の日本外国特派員協会で記者会見。家族たちは「世界に迷惑と心配をかけた」として謝罪し、救出のために世界のメディアに協力して欲しいと改めて訴えた。一方、海外のメディアは被害者家族に同情的で、ドイツの『南ドイツ新聞』ヘンリック=ボルク記者は「誘拐された日本人家族に口枷」と報じ、「(日本のマスコミは)家族ではなく、政府を批判すべきではないか」と主張した。
 また、イラクのイスラム教スンニ派宗教指導者組織のトップであるハーリス=ザーリ師は、共同通信の取材(取材そのものは13日)に対し、人質解放を呼び掛けた声明はファトワ(宗教令)と明らかに。ファトワを出した理由は「衛星テレビで人質の家族が解放を訴えているのを見たからだ」と述べた。
4月15日 『産經新聞』は「主張」で「(引用者注:米国のブッシュ)大統領が指摘するように、イラクの大半は安定している」と主張。
 同日、人質3人が解放されたが、フリージャーナリストの安田純平氏と非政府組織(NGO)メンバーの渡辺修孝氏が何者かに拉致された。
 米国のパウエル国務長官は、TBSの金平茂紀氏の取材に対し、イラク人質事件について次のように述べた。
(1)イラクの人々のために、危険を冒して、現地入りする市民がいることを日本は誇りに思うべきだ。
(2)また、危険を喜んで引き受けた兵士(自衛隊)のことを誇りに思うべきだ。
(3)私たちは「おまえは危険を冒した、おまえのせいだ」と言うことはできない。彼らを安全に取り戻すためにできる、あらゆることをする義務がある。(Interview on Tokyo Broadcasting System International with Shigenori Kanehira
4月16日 イスラム聖職者協会のアブドルサラム=クバイシ師は、邦人解放をめぐり小泉首相が直接、宗教者委の名を挙げて評価しなかったことに触れ、「我々の努力を日本人の多くが評価してくれている。しかし、日本政府はそうではないようだ」と批判。
 また、バグダッドの日本大使館から連絡があったのは14日の1回だけなのに対し、ロシア人や中国人人質の解放交渉を手がけた時は、両国の大使館は聖職者協会に頻繁に連絡してきたという。
 公明党の冬柴鐵三幹事長は、「(人質救出のため)大変なお金がかかっており、税金から出している」と、被害者から救助費を徴収するよう主張。与党内から同様の意見が続出したという。
4月17日 共同通信社がイラク人質解放直後の16〜17日に実施した輿論調査によると、政府の自衛隊撤退拒否回答について「妥当だった」61.3%、「妥当ではなかった」8.8%。9〜10日の調査に比べ、支持が急増した。
 なお、イラクへの自衛隊派遣に関しては、賛成53.2%、反対38.2%で、今年1月に陸上自衛隊の派遣が始まって以来の調査で、初めて半数を超えたという。
4月18日 高遠氏ら被害者帰国。ドバイでの診察で三人が心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されたため記者会見は実施されず。『週刊現代』によると、ある記者は高遠氏の弟に 「答えてほしい。(弟が)耳が聞こえないのなら、別ですけれど」と言ったという。
4月20日 衆議院法務委員会で、与謝野馨氏(自民)が、民主党提出の刑事訴訟法改正案に対し、アメリカでは日本より通信傍受の要件が厳しくなく、民主党案には盗聴という「捜査手法を駆使して真実を解明しよう、社会から悪を追放しよう」 という姿勢がないと批判。
 また、参議院外交防衛委員会では、サイバー犯罪条約関連で、通信傍受は一体どこまで認めるのかという榛葉賀津也[しんば かづや]氏(民主)の質問。阿部正俊外務副大臣(自民)は、この条約で傍受の範囲が拡大されることはないとしつつ、将来については「私は今の時点で申し上げることは適当ではないのかな」と含みを持たせた。条約承認案は、共産のみ反対討論を行ったのち賛成多数で委員会を通過。
 同日、逢沢一郎外務副大臣(自民)は衆議院武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会(有事法制特別委員会)で、桝屋敬悟氏(公明)の質問に対し、高遠氏らイラクでの被害者三人に対して、バグダッドからアラブ首長国連邦のドバイに移動した際のチャーター便運航費約6000ドル(約66万円)を請求する方針を示した。
 また、外務省はイラク・ムサンナー県で給水活動をしているフランスのNGO「ACTED」に給水車両のレンタル料35台分、約35万3000ドルの援助を発表。これにより、6ヶ月間、延べ約6万人の人たちが衛生上安全な水を飲むことができるようになるという。
4月21日 参議院本会議で、サイバー犯罪条約の締結を、自民、公明、民主、無所属の賛成多数で承認。このままならば、関連法規を条約に合わせて改正した上で、条約を批准し、3ヶ月後に発効することになる。
4月26日 参議院決算委員会で、柏村武昭氏(自民)は、イラクで人質となった被害者について「政府の退避勧告があるにもかかわらず」イラクに入国し、「武装勢力に対する利敵行為」を働いたと非難。さらに、「人質の中には自衛隊イラク派遣に公然と反対していた人もいるらしいと。もし仮にそうだとしたら、同じ日本国民ではあってもそんな反政府、反日的分子のために数十億円もの血税を用いることは強烈な違和感、不快感を持たざるを得ない」と、政府に反対する人間は見捨てて当然との見解を示した。(「反日的」の部分は、会議録では削除されている)
5月10日 京都府警は、「Winny」開発者の金子勇容疑者を、著作権法違反(公衆送信権の侵害)の幇助(ほうじょ)容疑で逮捕。「2ちゃんねる」上などでWinnyを頒布したのが、著作権法違反を蔓延させたと判断したという。
5月11日 参議院総務委員会の電波法改正案審議で、宮本岳志氏(共産)が、テレビ放送デジタル化による盗聴の危険を指摘。また、又市征治氏(社民)が、Winny作者の逮捕を例に挙げ、「改正案では暗号を解読しただけでも未遂罪」だが、犯行の意図はどう確認するのか、盗聴を監視するため「役所が常時盗聴する」ことにならないかと質問。総務省総合通信基盤局長の有冨寛一郎氏は、「復元の目的が漏示、窃用であるという場合に適用される」と答弁。この後、改正案は自民、公明、共産、社民の賛成多数で可決。
5月12日 参議院本会議で、電波法及び有線電気通信法の一部を改正する法律案が、自民、公明、共産、社民、無所属の会、みどり、無所属の賛成多数で成立。サイバー犯罪条約批准を進めるための法改正の一つ。不正な目的で傍受した暗号復元に対する罰則規定など。無線の性質上、暗号を掛けてなければ罰則はない。
5月13日 衆議院憲法調査会公聴会。公述人の安保克也氏が、盗聴法成立を「国家による諜報政策、情報獲得のレベルの問題」と位置づけ、防諜政策、情報保全のレベルの法制定、スパイ防止法制定や、通信の秘密不可侵を定めた憲法二十一条の改正を主張。
5月18日 参議院法務委員会で、松村龍二氏(自民)が諸外国で取調べの録音、録画や弁護人の立会いなどを認めている国々の捜査手法を質問。法務省の樋渡氏は、「アメリカやイギリス、ドイツなどの諸外国におきましては、おとり捜査や潜入捜査、あるいは通信傍受といった、供述に頼らずに事件を解明し犯人を検挙するための捜査手法が広く認められているものと承知しております」と答弁。
5月26日 イラク中部、バグダッド郊外・マフムーディーヤ付近で、フリージャーナリストの橋田信介氏と小川功太郎氏の乗った車両が何者かに襲撃され、二人とも殺された。
5月27日 衆議院憲法調査会基本的人権の保障に関する調査小委員会。棚橋泰文氏(自民)が、参考人の田口守一氏への質問の中で、捜査の可視化をするには、「おとり捜査とか司法取引あるいは通信傍受の範囲の拡大」がなければいけないと主張。捜査の可視化とは、容疑者の取り調べ状況をテープ録音やビデオ録画などの方法で記録し、捜査の過程を外部からも目に見えるようにすることをいう。
5月28日 イラク統治評議会の指名により、アヤド=アラウィ氏が暫定政権の首相を僭称。
6月2日 衆議院法務委員会で、辻惠[つじ めぐむ]氏(民主)が、警察が取調中強要して被疑者に電話をかけさせ、通話を相手方の承諾無しに録音するのはおかしいと質問。警察庁の栗本氏は通信傍受法等いろいろな法令にのっとって行われなきゃいけないと答弁しつつ、録音があり得ると認めた。また、辻氏の質問内容でも、盗聴法が自明の存在として定着し出している点に注意。
6月24日 第20回参議院通常選挙公示。
6月25日 本日付けで、原田明夫検事総長が、定年前の勇退。後任は東京高検検事長の松尾邦弘氏。原田氏は法務省検事局長時代、盗聴法成立に直接関わった。後任の松尾氏も、盗聴法成立を進めた最重要人物の一人。
7月1日 サイバー犯罪条約(サイバー犯罪に関する条約)発効。現時点で批准済みなのは、アルバニア、クロアチア、エストニア、ハンガリー、リトアニア、ルーマニアの6ヶ国。
7月11日 第20回参議院通常選挙投開票。与党は自民49、公明11。野党は民主50、共産4、社民2、他の政党はみどり、女性、新風、世界経済共同体党といずれも0。また無所属は5で、1人が与党系。ただし、当分自民入りはなく、無所属のまま民主会派の「民主党・新緑風会」に入った。
 この結果、盗聴法賛成派は与党+民主自由系+1で64、反対派は残りの57となった。与党は全体で1議席減。6年前は自民の大敗だったので、水増し5議席を差し引くと3議席の微増。しかし、与党では60議席と改選過半数にぎりぎり届かず、非改選の優位を差し引くと与党の辛勝という結果になった。しかし、民主躍進の一方で共産が大敗したため、盗聴法賛成派は僅かながら増えてしまった。
 参議院全体では、全242議席中、盗聴法賛成派が150、反対派が92となった。
7月16日 東京高裁で、盗聴法による初の電話盗聴で、麻薬特例法違反などの罪に問われたN被告の控訴審判決。高裁は懲役5年6月、罰金80万円、追徴金約42万円の1審東京地裁判決を支持、被告側の控訴を棄却した。原田国男裁判長は「共犯者がいて、一部の取り調べや家宅捜索では共犯者の特定が困難な場合、通信傍受法を適用することは可能」と判断した。被告の弁護人は「通信傍受の適否について裁判所が判断したのは初めてではないか」とした上で 「通信傍受は例外的な捜査だったはずが、これではどんな事件でもできるようになってしまう。上告を被告と検討したい」と話している。
8月5日 盗聴法による初の電話盗聴で、麻薬特例法違反などに問われたN被告が上告を取り下げ。懲役5年6月、罰金80万円などの有罪判決確定。
8月13日 警察庁次長の漆間巌氏が、第20代警察庁長官に就任。
8月19日 警察庁、「テロ対策推進要綱」を全国の警察本部に通達。
 アル・カーイダなどによるテロの危険性が高まったとして、旅券へのバイオメトリクス(生体認証)情報採用や通信傍受・おとり捜査の強化など、欧米諸国のテロ対策を取り入れ、「我が国の国情、法体系に則し国民の合意が得られる有効な法制が整備されるよう、内閣官房を始め関係省庁との連携を更に強化する」としている。
9月11日 内閣府の情報公開審査会、通信傍受用仮メールボックスについて不開示部分の情報公開請求に対し、不開示妥当の答申。崎山伸夫氏が警察庁に不服申立てていたもの。
10月17日 『讀賣新聞』によると、政府が年内にも策定する包括的テロ防止対策の骨格が明らかに。盗聴法を改正し、テロ行為なども対象とすることでテロ計画を把握出来るようにするという。また、司法取引の容認やおとり捜査の拡大、ホテルなどに対し、外国人宿泊者リストの捜査機関への提出を義務づける旅館業法改正、外国人入国制限の強化なども検討している。
10月25日 この日、警察庁が「組織犯罪対策要綱」をまとめる。これまでバラバラだった暴力団、銃器薬物、来日外国人などの組織犯罪対策を一本化しようというもの。泳がせ捜査や通信傍受の積極活用を盛り込んだ。
10月26日 「イラク聖戦アルカイダ組織」を名乗る組織がイラクで日本人男性(香田証生氏)を拉致したとして男性の映像をWebサイトに流し、イラク・サマーワに駐留する自衛隊の48時間以内の撤退を要求、応じなければ殺害すると脅迫。
10月27日 小泉首相、拉致犯人の要求を「テロを許すことは出来ない。テロに屈することは出来ない」と拒絶。
10月31日 イラク・バグダッド郊外で、首を斬られた香田氏の遺体が発見された。犯人グループは、香田氏を斬り殺す様をWebサイトに放映した。
11月11日 パレスチナのアラファト大統領死去、享年76(満75歳)。
12月10日 細田博之官房長官(政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」本部長)は記者会見で、テロ対策を目的とした来日外国人への指紋押捺導入を発表。人権上の配慮から、盗聴法改正やテロリストの無令状拘束などは導入を見送った。
2005[平成17]年 1月21日 政府、共謀罪の新設を含む、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案を衆議院法務委員会に再提出。一度廃案になっていたもの。
1月27日 国家公安委員会で、警察庁の岡田薫刑事局長より、国会に先立ち2004[平成16年]度中の通信傍受の実施状況等を報告。安崎暁委員と荻野直紀委員は共に、盗聴法適用が薬物犯罪に限定されている現状に対し、他の犯罪にも拡大するよう主張。さらに、「振り込め詐欺などにこれを適用できればもっと成果が上がるのではないかと思う」(荻野氏の発言だが安崎氏も同様)と述べた。岡田刑事局長は、「振り込め詐欺のような詐欺事案については同法を適用することはできないが、その運用実態については確実に実務に定着しつつある段階であり、今後更に活用されていくだろうと思われる」と答弁。漆間巌警察庁長官は、適用対象の拡大は、立会人の負担が増すとした上で、問題点の指摘には、「もう少し実績を積み重ね」た上で行う必要があると答弁した。また、大森政輔委員は、盗聴の範囲拡大について「市民社会の原則自体を変える必要が出てくると思われる」として、改憲にも関わってくると慎重論を述べた。
2月3日 与党の「人権問題等に関する懇話会」(古賀誠座長)は、人権擁護法案の再提出を決定。メディア規制は「凍結」に変更する。
2月4日 法務省が2004[平成16年]度中の通信傍受の実施状況等を公表。それによると、4件の犯罪に対し、5件の盗聴(1件は再請求)が認められ、その結果合わせて12人を逮捕したという。罪状は全て麻薬特例法違反で、対象となる通話は全て携帯電話だった。
 また、2002〜2003年度中に行われた盗聴は6件で、新たに5人を逮捕したと発表した。従って、盗聴法による盗聴件数は11件となった。
2月10日 魚住昭氏らにより、衆議院第2議員会館で「「人権擁護法案」に反対する!緊急記者会見・集会」開催。
3月9日 参議院本会議で、荻野直紀国家公安委員の後任に、産経新聞社専務(論説・正論担当・論説委員長)の吉田信行氏を起用する人事が同意。荻野氏の任期は5月23日まで。
4月4日 自民党新憲法起草委員会、各小委員会の要綱を発表。「個人の権利には義務が伴い、自由には責任が当然伴う」ことを定めた条文の追加や、表現の自由(現憲法21条)について、青少年に「有害」な「情報や図書の出版・販売」を法律により制限されうるようにするとしている。
4月5日 自民党の人権擁護法案反対派が、「真の人権擁護を考える懇談会」を結成。会長に平沼赳夫氏、顧問に安倍晋三氏など。これまでの反対派と違うところは、人権委員会が令状無しで出頭要請などが可能であり、権限が強大であること。人権擁護委員(人権擁護法案とは無関係に約14000人現存するが、法案では2万人に増員するとしている)の資格に法案では国籍制限が無く、「家賃を滞納する素性の知れない」外国人や北朝鮮の関係者、国旗・国歌反対派、部落解放同盟員などの「偏った」人物が権限を振るい、言論を弾圧する危険性があるとしたことなどである。その上で、「人権侵害」の定義の明確化や、人権擁護委員の資格を日本人に限るようにするなどの修正を要求。(この立場の反対論はてんこもり野郎氏の
人権擁護(言論弾圧)法案反対!に詳しい。ただし、てんこもり野郎氏は「韓国人と関わると不幸になる」(いわゆる「壇君の呪い」)と決めつけるサイトを運営するなど、本来の意味での確信犯的な人種差別主義者であり、朝鮮&韓国人・中国人などの外国人を見下す前提で議論している点に注意)
4月28日 イラクで暫定政権に代わる移行政府が発足。首相はイブラヒム=ジャファリ氏、大統領はクルド人のジャラル=タラバニ氏。
5月9日 イラクのイスラム教スンニ派武装組織「アンサール・アルスンナ」が、銃撃戦の末、斎藤昭彦氏を拘束したとWebサイトに発表。斎藤氏は英国系の軍事会社(Private Military Company)HART SECURITY社員で傭兵。
5月28日 アンサール・アルスンナ、斎藤氏の死亡をWebサイトに発表。遺族により、犯人グループの流した映像は斎藤氏に間違いない事が判明した。
6月24日 共謀罪の新設を含む、犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案が、衆議院法務委員会で審議入り。
7月7日 自民党新憲法起草委員会、要綱一次素案を発表。基本的には4月4日発表のものと同じだが、やや公明党・民主党に配慮した内容。
7月20日 韓国紙『朝鮮日報』によると、金泳三政権下の1993年〜1998年に掛けて、情報機関・国家安全企画部(KCIA、現:国家情報院)が政界、財界、言論界の要人について食事の席での会話を不法に盗聴していたことが明らかに。この盗聴機関は内部で「ミリム」と呼ばれていたという。
7月21日 アメリカ合衆国下院は、米大規模テロ後に成立した愛国者法16条項中、14条項を恒久化し、残りを10年延長する法案を可決。捜査のための盗聴の大幅な強化の他、図書館利用記録の入手や予防拘禁などを可能にする内容。2005年末までの4年間の時限立法であったため、米ブッシュ大統領は恒久化を議会に強く要求していた。
7月23日 政府、今国会への人権擁護法案提出見送りを決定。
7月29日 政府・与党は、共謀罪創設などを盛り込んだ組織的犯罪処罰法などの改正案の、今国会での成立を断念。継続審議を目指すが、野党からは廃案を求める主張も。
 同日、民主党は国会への人権擁護法案の独自修正案提出を決定。メディア規制を自主規制を促す内容に変更。
8月1日 自民党新憲法起草委員会、新憲法一次案を発表。「自由及び権利には責任及び義務が伴う」と明記。表現の自由制限については条文化は見送られたが、今後も議論を重ねさらに条文の変更を加える予定。
8月4日 韓国国家安全企画部で「ミリム」を指揮した孔運泳元チーム長が、通信秘密保護法違反容疑で逮捕される。ただし、直接の容疑は盗聴テープの流出による。
8月5日 韓国国家情報院の金昇圭院長は盗聴を謝罪し、「違法な通信傍受は'02年3月以降完全に根絶された」と主張。すなわち、少なくとも金大中政権下まで違法盗聴は続いていたと認めた。
8月8日 参議院本会議で、野党および自民からの造反者の反対により、郵政民営化関連六法案が否決。小泉首相は、これを理由に衆議院を解散。
  同日、韓国紙『東亜日報』は、元国家情報院幹部の証言として、現在(盧武鉉政権)も事実上の盗聴が行われていると報道。
8月17日 韓国情報通信部の陳大済情報通信部長官は、従来の見解を翻し、携帯電話の盗聴は可能と発表。これまでも盗聴して来たのではないかと批判が挙がる。
9月11日 第44回衆議院総選挙投開票。与党は自民296、公明31。旧自民の郵政民営化反対組は国新4、新日1、無所属13。野党は民主113(うち旧自由系11)、共産9、社民7、無所属5。郵政組以外の無所属は、保守系4、その他1。与党は総計で327議席と、50議席増の圧勝。三分の二を確保し、秘密会(非公開)の開催や議員除名が可能になった。
 この結果、盗聴法賛成派は与党+郵政造反+民主内自由系+3(田中眞紀子氏除く)で359、反対派は残りの121となった。
 盗聴法賛成派は前回選挙より52増、選挙前より53増と激増。盗聴法成立以来、最悪の結果となった。
9月21日 第163回特別国会開会。
10月4日 政府、共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法などの3度目の提出を閣議決定。即日衆議院に提出。
10月6日 韓国の金銀星・元国家情報院国内担当次長が違法盗聴の容疑で逮捕。金大中政権時代の2000年4月〜2001年11月、次長の座にあった。金被疑者は容疑を自供。
11月1日 第163回特別国会閉会。共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法などが継続審議に。
10月28日 自民党が改憲のための新憲法草案を決定。自衛軍を規定し名実共に再軍備を表明したほか、「自由及び権利には責任及び義務が伴う」と規定し、言論統制をはっきり憲法に定める内容。他に、政教分離の緩和、国会の定足数の緩和(現憲法では改憲案以外は採決の有無を問わず三分の一の出席が必要だが、裁決時以外は廃止する)、改憲条項の緩和(総議員の三分の二以上を過半数に)など。
11月28日 西村眞悟代議士(民主)が弁護士法違反容疑で大阪府警に逮捕される。大阪府警によると、交通事故の示談交渉などの「非弁活動(非弁護士による違法な活動)」を行った事務所元職員に違法な「名義貸し(西村氏は弁護士資格を持つ)」をしていたという。西村氏は翌日、民主党を除籍された。
12月14日 韓国の検察当局は、国家安全企画部・国家情報院による不法盗聴事件の捜査結果を発表。金泳三政権下で、特殊盗聴チームが3年間にわたり延べ約5400人を盗聴したと表明。さらに、金大中政権下でも、約1800人に対する盗聴が確認されたという。
12月16日 アメリカの『ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)』紙によると、ブッシュ大統領は、2002年よりNSAに無令状での盗聴権限を与えていたと報じた。盗聴対象者は国内で最大500人、海外を含めると最大7000人に及ぶという。「愛国者法」で無令状の盗聴が解禁された同国だが、国内通信については依然令状が必要である。同紙によると、1年前に政府側から「テロリストの利益になりかねない」と記事にしないよう要請されていたが、追加取材の上テロリストを利すると見られる部分を削除して掲載に踏み切ったという。また、アメリカ上院司法委員会のスペクター委員長(共和党)は「問題性は明白だ」として、監視公聴会を開く方針を明らかにした。
 同日、上院は今月期限切れを迎える愛国者法の延長を求める動議を否決。
12月17日 米ブッシュ大統領は、無令状での盗聴について、ラジオでの生放送で「法律と憲法に基づいて、アルカイダなどテロ組織と関係があるとされる人物の国際的な通信を傍受する権限を(NSAに)与えた」と述べ認めた。盗聴許可は45日ごとに見直され、これまでに30回以上認められていた。 
 民主党のラス=フェインゴールド上院議員は、「大統領は、自身の権限が法律や憲法より上だと思っているが、それはわれわれの民主主義システムではない。彼は大統領であって、王ではないのだ」と批判した。
12月18日 大阪地検特捜部は、弁護士法違反の容疑に問われている西村眞悟代議士(無所属)ら3人を、組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等収受)容疑で再逮捕。弁護士及び国会議員に組対法が適用されるのは初めて。
 同日、米ライス国務長官はNSAの国内通信盗聴について、盗聴はアルカーイダと関わりがあるとされる人物に限定されていると述べた。また、チェイニー副大統領は米ABCテレビのインタビューで「もし米同時テロの前に(こうした捜査権限を)持っていれば、同時テロを防ぐことができたかもしれない」と主張した。
12月19日 自民党は「「犯罪から子供を守る」ための緊急提言」を発表。「女子児童を対象とした犯罪増加の背景には、児童ポルノや暴力的なコミック、過激なゲームソフト等の蔓延の問題が指摘される」と主張し、漫画やゲーム等を規制する「青少年健全育成推進基本法」制定に取り組むと改めて表明。
 同日、米ブッシュ大統領は記者会見で、「米同時多発テロ事件後に米議会が大統領に権限を与えた(と解釈している)」と主張し、改めて盗聴継続を表明。また、司法省に機密漏洩について調査を始めさせたことも明らかにした。
12月22日 米下院は、愛国者法について現行のまま2006年2月3日まで約1ヶ月間の延長を可決。上院も下院案に同意。期限切れを回避するための仮の措置。
12月23日 米民主党のダシュル元院内総務によると、ブッシュ大統領が盗聴の根拠として挙げた武力行使容認決議(2001年9月14日可決)で、政権側が米国内でも武力を含めた広範な権限を行使できるよう修正を求めたが、議会は拒絶していたという。つまり、国内での無令状盗聴まで認めたわけではないと反論したもの。
12月24日 米紙『ニューヨーク・タイムズ』によると、現役の政府当局者らの話として、NSAはホワイトハウスが確認しているより遙かに大量の情報を盗聴していた可能性があるという。その手法は、複数のプロバイダの協力を得て、米国の通信回線と国外の通信回線をつなぐ「スイッチ」と呼ばれる交換機部分に直接接続したものだという。
2006[平成18]年 1月20日 第164回通常国会開会。
1月6日 『毎日新聞』によると、政府はテロ対策基本法案の作成に着手。政府関係者によると、テロを未然に防ぐ事を目的としており、テロリスト・テロ組織と認定した相手への予防拘禁・国外退去・家宅捜索・盗聴などの強制捜査権行使を想定している。
1月31日 三重県警の関係者によると、盗聴法を初めて殺人事件に適用していたことを明らかにした。2003年7月に津市であった、山口組系暴力団弘道会系組織の幹部殺人事件。当初、通常の捜査で4人を逮捕したが、その後の捜査で暴力団が組織的に関与した疑いが強まったとして、組織的犯罪処罰法の組織的殺人容疑で盗聴法を適用。新たに1人を共犯容疑で逮捕した。ただし、起訴罪名は組織的殺人罪ではなく、通常の殺人罪だった。
 また、『産經新聞』によると、政府はイラクに派兵された自衛隊の撤退を、5月に完了させる方針を固めたという。イギリス・オーストラリア軍が撤兵する見込みとなったため、三国で足並みを揃えるという。小泉首相は記者会見でこれを否定。
2月2日 米上院は、愛国者法の3月10日までの延長を承認。引き続き暫定的なもの。
2月3日 杉浦正健法務相は閣議で、2005年は全国の警察により殺人1件、薬物密売4件の計5事件で通信傍受法に基づく電話傍受を実施、計18人を逮捕したと説明した。また、5件とも携帯電話の盗聴だった。杉浦氏は記者会見で
「警察当局も運用に少しずつ慣れてきたという印象だ。もっと活用して治安維持のために役立ててほしい」と述べた。
2月14日 与党、共謀罪創設について、民主党に修正案を提示。報道によると、(1)対象を暴力団など組織的な犯罪集団が関与した犯罪に限る (2)何らかの準備をしていた「顕示行為」がある、以上二点を挙げたという。
2月20日 盗聴法(組織的犯罪対策法)に反対する市民連絡会は声明で、与党の共謀罪修正案の文言には「その共同の目的がこれらの罪を実行することにある団体」とあり、犯罪目的を公言する団体があり得ない以上、判断基準は捜査当局の恣意的判断になる。また、「犯罪の実行に資する行為が行われた場合」との文言は、準備行為をさすのか、顕示行為をさすのかはっきりせず(『日本経済新聞』によれば顕示行為)、顕示行為は準備行為よりさらに前段階で、犯罪以前の行為である。従って、「修正によってその危険性が減ずるものではないことが明らか」としている。
2月28日 衆議院第二議員会館第二会議室で、「話し合うことが罪になる! 共謀罪の新設に反対する市民と国会議員の集い」開催。小倉利丸氏などが出席。
3月2日 米上院本会議で、愛国者法の4年間の延長が可決。10日に期限切れを迎える予定だった捜査権拡大に関する16条項のうち14条項が恒久化され、残りは4年間の延長。図書館・医療情報提出を命じられた側が義務づけられる箝口令についての法廷闘争の権利などを認める修正により、成立した。
4月6日 アメリカで、電子フロンティア財団(EFF)は「米AT&Tが米政府の盗聴プログラムに関与したことを裏付ける証拠書類を裁判所に提出した」と発表。EFFが5日に提出した証拠書類には、AT&Tの元通信技術士による供述と内部文書があり、サンフランシスコのインターネットおよび電話通信用ハブに、大容量のインターネット・トラフィックを切り替えられる装置を設置し、NSAの盗聴に協力したという。
6月16日 第164回通常国会閉会。共謀罪法案などが継続審議に。
7月1日 東京高検検事長の但木敬一氏が、第23代最高検察庁検事総長となる。
7月7日 イラク派兵中の陸上自衛隊、撤退開始(25日完了)。しかし、航空自衛隊は逆に任務を拡大、多国籍軍の兵站輸送や国連物資などの輸送を主力にする。
8月9日 イギリスのロンドン警視庁によると、首都ロンドンのヒースロー国際空港からアメリカ合衆国のボストン、ニューヨーク、ワシントン、シカゴ、ロサンゼルスへ向かう航空機計10機の爆破を計画していたとして、25人の被疑者を逮捕(ロンドン旅客機爆破テロ未遂事件)。
 城所岩生氏の「テロ戦争長期化に備える米国通信傍受法 〔下〕」(『国際商事法務』2007年2月号)によれば、被疑者の通話を事前に通信傍受した事が、未然のうちの摘発に一役買ったという。
8月17日 米国デトロイト連邦地方裁判所で、Anna Diggs TAYLOR判事が、ブッシュ政権の認可した令状なしのインターネットおよび電話盗聴プログラムに違憲判決。
9月26日 第165回臨時国会開会。小泉内閣総辞職。自民党の安倍晋三氏が、第90代内閣総理大臣となる。
12月19日 第165回臨時国会閉会。
2007[平成19]年 1月18日 米Microsoft社が、『Windows Vista』のセキュリティ機能を開発する際にNSAの協力を得た事を認めた。Microsoft社は協力の内容については明らかにしなかったが、NSAによればチームを二つに分け、一つは悪意のあるハッカー役でOSに侵入を試みてその安全性を試し、もう一つはセキュリティ機能の初期設定に協力したという。
1月25日 第166回通常国会開会。
2月16日 長勢甚遠法務相(自民)は、閣議で2006年中の盗聴法による盗聴内容を発表。9件の覚醒剤密輸事件で実施され、27人を逮捕したと発表。件数、逮捕者とも過去最多。
7月5日 第166回通常国会閉会。
7月12日 第21回参議院通常選挙公示。
7月29日 第21回参議院通常選挙投開票。与党は自民37、公明9。野党は民主60、共産3、社民2、国新2、新日1。他の政党は女性、9条、新風、共生などいずれも0。また無所属は7で、1人が与党系。与党系は自民入党の見込み。
 この結果、盗聴法賛成派は与党+民主自由系+1(羽田雄一郎氏)で55、反対派は残りの66となった。与党は全体で29議席減の惨敗となり、与党系無所属を足しても過半数割れ。与野党逆転した。また、初めて盗聴法反対派が賛成派を上回った。しかし、共産・社民が議席を減らしたため、相対的に民主党内盗聴法賛成派が増加。態度を明らかにしていない国新・新日の動向も併せて不安が残る結果となった。
 参議院全体では、全242議席中、盗聴法賛成派が116、反対派が121、態度不明が5となった。
8月5日 米国ブッシュ大統領は、無令状での盗聴権限を大統領に与えるForeign Intelligence Surveillance Act(FISA、外国諜報活動偵察法)改正案に署名し、成立。同法は連邦捜査官が監視活動を行う際の手続きを定めたもので、現行法はテロリストやスパイ、外国の政治組織が関わっている相当の理由があれば盗聴令状を要求出来る内容。
 2005年12月、大統領の許可による、令状無しの違法盗聴が発覚した。この改正案では、こうした令状の制限を6ヶ月の時限立法で無くし、従来違法な盗聴を合法化させた。
8月16日 警察庁次長の吉村博人氏が、第21代警察庁長官に就任。
9月10日 第168回臨時国会開会。
9月12日 安倍首相、辞意表明。
9月25日 安倍内閣総辞職。
9月26日 自民党の福田康夫氏が、第91代内閣総理大臣となる。
10月30日 国会内で、福田首相と民主党の小沢一郎代表が会談。
11月2日 福田首相と小沢代表、再び会談。自民・民主大連立で合意したが、民主党の役員会で小沢氏以外の全員が反対し破談。背後には中曾根康弘氏や読売新聞社の渡邉恒雄氏、元大蔵事務次官の斎藤次郎氏らの働き掛けがあった。
11月4日 小沢氏、民主党代表辞任表明。『讀賣新聞』は「「民主党内、絶対まとめる」大連立は小沢氏が持ちかけ」と報じたが小沢は強く否定し、「私を政治的に抹殺し、民主党のイメージを決定的にダウンさせることを意図した明白な中傷」と反論した。
11月6日 小沢氏、辞意を撤回。
12月22日 日本テレビ放映『本音激論!!なかそね荘』で、出演した渡邉恒雄氏は「大連立は小沢から持ちかけた。俺も福田も民主党は大丈夫か? と聞いたら大丈夫だと答えた。ところが1・2時間後に駄目になった」と主張。自らの関与を認めた。また、中曾根氏は「大連立には賛成だ。選挙後に大連立、中連立はできると思う」と言った。
2008[平成20]年 1月10日 アメリカで公表された政府監査の文書によると、米連邦捜査局(FBI)が手違いで電話代を滞納し、電話会社に盗聴用の回線を切断された。
1月15日 第168回臨時国会閉会。
1月18日 第169回通常国会開会。
2月5日 鳩山邦夫法務相(自民)は、閣議で2007年中の盗聴法による盗聴内容を発表。7件の覚醒剤密輸事件で実施され、34人を逮捕したと発表。対象は全て携帯電話で、2006年中に盗聴した事件での新たな逮捕者は2人だった。件数は前年比2件減、逮捕者数は過去最多。
5月1日 韓国・放送通信委員会によると、「インターネット通信傍受」件数が 毎年3割ずつ増えている事が判明。2007年の盗聴件数は1149件で、前年比11.2%増だった。国家情報院による盗聴が88%を占め、警察・検察による盗聴は減少しているという(『中央日報』5月2日号「捜査機関、電子メールなど「ネット上の通信傍受」急増へ」http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=99507&servcode=300§code=330)。
5月21日 参議院本会議で、与党と民主、国新などの賛成により宇宙基本法が可決。軍事用通信衛星や、盗聴衛星などの利用が可能になった。
6月10日 児童ポルノ・買春禁止法改正案が、森山眞弓氏(自民)らにより衆議院に提出(http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g16901032.htm)。単純所持への罰則を盛り込んだ他、附則で漫画・アニメなどの絵についても三年後を目処に規制対象とするかどうか調査するとしている。
6月11日 参議院で、民主・社民・国新3党による福田首相問責決議を可決。
 首相への問責決議可決は史上初。
6月13日 東京で、11日より開催したG8司法・内務大臣会議終了。国際組織犯罪対策及び国際テロ対策についての総括宣言では、携帯電話、インターネット等での犯罪に対抗するため「電話産業と法執行機関の間の、より緊密な協力」や国際組織犯罪防止条約及び付属議定書、サイバー犯罪条約批准などが不可欠とした。
 また、鳩山邦夫法務相は、米国のムケージー司法長官との会談で、共謀罪法案について「世界的な犯罪防止ネットワークに穴をあけている状態で申し訳ない。早く責任を果たしたい」と成立への意欲を示した。さらに、児童ポルノの単純所持規制導入についても「法務省としても、早く法案が成立するように協力したい」と述べ、ムケージー氏は「児童ポルノは、児童に対する犯罪であり、それを許容する世界に住みたいと思う人はいない」と評価した。
6月18日 スウェーデン議会で、国防ラジオ通信局(FRA:National Defence Radio Establishment)に国境を越える全ての有線通信の盗聴を認めるFRA法が可決、成立。賛成143、反対138、棄権1の僅差だった。
 2009年1月1日施行。
7月1日 東京高検検事長の樋渡利秋氏が、第24代最高検察庁検事総長となる。
7月9日 米上院で、海外との通信に対して、無令状での盗聴の合法化及び、法成立以前に遡り政府の盗聴活動に協力する通信会社が訴訟の対象とならない免責事項を盛り込んだ盗聴法(海外秘密情報監視法、FISA法)改定案が賛成69、反対28で可決。免責事項を削除した、野党・民主党の修正案は先だって否決された。国際テロ、スパイ容疑者の通信傍受が目的としている。
 可決で無令状盗聴が恒久法化(無期限化)された。さらに免責事項により、通信会社を相手取って係争中の46の訴訟は全て無効となる。
 院は民主党が過半数を握っているが、民主党の大統領選候補者に内定しているバラク=オバマ氏らが賛成に回り可決した(米国では原則として党議拘束は無い)。共和党の大統領選候補者に内定しているジョン=マケイン氏は、遊説のため欠席した。
7月10日 米ブッシュ大統領が盗聴法改定案に署名し、成立。ブッシュ氏は記者に対し、「敵が誰と何を話し、何を計画しているかを知らねばならない」「この法律は米国への新たな攻撃を防ぐ上で極めて重要だ」と言った。
8月4日 中国新疆ウイグル自治区のカシュガルで、国境警備警察が襲撃され、16名が殺された。中国側は「分裂主義者(ウイグル独立派)」の仕業としている。  韓国紙『中央日報』によると、やはり独立運動のあるチベット現地消息筋の情報として、チベットの主な寺院と僧侶に対する、監視と通信傍受が強化されたという(http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=103174&servcode=A00§code=A00)。
8月29日 民主党の渡辺秀央氏らが独立し、改革クラブを結党。実質与党として振る舞うため。
9月24日 福田内閣総辞職。
 第170回臨時国会開会。自民党の麻生太郎氏が、第92代内閣総理大臣となる。
11月4日 アメリカ大統領選投開票。民主党のバラク=フセイン=オバマ氏が大統領選挙人の過半数を獲得し、次期大統領選出を決める(正式選出は12月15日)。
12月25日 第170回臨時国会閉会。
2009[平成21]年 1月5日 第171回通常国会開会。
1月20日 オバマ氏が、第44代アメリカ合衆国大統領となる。
1月31日 森英介法務相(自民)は、閣議で2008年中の盗聴法による盗聴内容を発表。11件の薬物密売や拳銃所持事件で実施され、34人を逮捕したと発表。件数は前年と同じ、逮捕者は過去最多。
2月14日 航空自衛隊、イラク撤兵完了。自衛隊イラク派兵終わる。
6月5日 森英介法務相が、記者会見で取り調べの可視化について、「被疑者に供述をためらわせる要因となる」と主張。可視化が行われている「各国においても例えば免責ですとか、司法取引、あるいは広範な通信傍受」が同時に行われているから、可視化はそれらと共に検討すべきと述べた。
 再審が決定し、冤罪が確実となった足利事件の被疑者が、取調で自白に追い込まれた件に関する会見。
6月26日 衆議院法務委員会で、児童ポルノ・買春禁止法改正案の審議開始。自民案と民主案を審議。参考人として、日本ユニセフ協会大使のアグネス=チャン氏(自民側)、上智大の田島泰彦教授(民主側)が出席。
 この日、警察庁次長の安藤隆春氏が、第22代警察庁長官に就任。
7月14日 衆議院で民主・共産・社民・国新4党による麻生内閣不信任案が否決。
 参議院で、民主・共産・社民・国新・新日5党による麻生首相問責決議が可決。
7月21日 衆議院解散。第171回通常国会閉会。
8月8日 自民党を離党した渡辺喜美氏(無所属)らが、みんなの党を結党。
8月12日 盗聴法成立十周年。
8月18日 第45回衆議院議員総選挙公示。
8月30日 第45回衆議院議員総選挙投開票。 
与党は自民119、公明21。事実上の与党である改革0。野党は民主308、共産9、社民7、みんな5、国新3、新日1、大地1、無所属6(うち平沼系、保守系は4)。
 この結果、盗聴法賛成派は与党+保守系無所属+民主内自由系(自由系は、Wikipediaにある「小沢グループ」28人を仮にカウント、http://ja.wikipedia.org/wiki/民主党の派閥)172、反対派は297、不明は9となった。
 民主党の圧勝で、政権交代が実現した。また、史上初めて盗聴法反対派が衆参を制し、廃止への条件が整った。

*注:国会に関する記述では、「盗聴法案」のみ年表に記した所でも、組織対策三法案全体を含む事があります。また、肩書きは全て当時のものです。

シリーズ12に戻る
シリーズ14に進む
本文目次に戻る
盗聴法について考えるに戻る