盗聴法シリーズ(3) 盗聴法賛成論に反論(中) 修正案編(Ver.1.15)


>長期に渡って公開したいというのであれば、「エテルナワールド・ブランセル」の
>方に、MURASAMEさんの責任(大袈裟なものじゃないです。メアド書くだけなんで)
>において、載せて置いてもいいですよ(^^)。(181番 鷹月ぐみな氏)
 有り難うございます。ただ、今は学校のアドレスなので、個人のアドレスを手に入れてからにします。
>一人の行動力というものを信じているのですね。
>今の世の中では立派だと思いますよ(^^ (185番 同)
 いや、今になってはそれしか無いんだもん(;_;
>しかしこれだけの文章はここにポストするよりももっと影響力ある所に出した方が
>いいような気が……と思ったりはするのですが(^^; (同)
 いや、約束は約束だからと書き出したら、こんなに書いてしまいまして。(^^;
>ところで第何回まで続く予定なんでしょうか? (同)
 全8回の予定です。ただし、次々回は年表、最終回は引用・参考文献一覧の予定です。ではご期待の? 修正案編です。
(追記。結局、22回まで延びました。)


主張20−A, 原案は確かに危険だったが、公明党の修正案により歯止めが掛かった。(『公明新聞』'99年6月3日号、自民党ホームページ「犯罪組織と、闘うために」、他多数)
反論20−A, ここでは公明党により修正された、とされる部分への反論をします。例えば鷹月ぐみな氏も、
>盗聴法案の修正案に関してはそこそこ評価してますよ、私。(美少女掲示板217番)
 と書かれていました。各論については20−B以下で反論しますが、残念ながら私はほとんど評価出来ません。
 と言いますのは、まずはこの発言をご覧下さい。

「確かに、近年ますます深刻化する組織的犯罪を放置していてはなりませんし、またこれに対する適切な対応に早急に取り組まなければならないというのは当然のことであります。
(中略)
 こうした背景、そしてまた対応の必要性を十分に認識し、理解しながらも、なお私個人としては、特に犯罪捜査のための通信傍受に関する法律案、いわゆる盗聴法については憲法上も大きな問題があり、このまま安易な導入をすることは大変に危険が大きいと危惧するものであります。
 それは盗聴捜査が、通信の自由という憲法上の人権を侵害する可能性が大きいというだけでなく、盗聴という手段には歯止めが利かない。国家権力の都合で、政治的に利用されてしまうという危険性が大きいという歴史的教訓があるからであります。」

 '98年11月17日に開かれた「盗聴法・組織犯罪対策法に反対する市民と国会議員の集い」に出席した公明党代表代行の浜四津敏子氏の発言です。 
 ここまで言って置きながら、「自自公」となると冒頭のように前言を翻した訳です。(なお盗聴法反対集会での発言は宮崎学ホームページのhttp://web.archive.org/web/20040212235814/http://www.ajibun.org/miyazaki5/doc/hama.html(保存版、元URLは削除)に全文が収録されています)
いくら修正したと言っても駄目です。何故ならば、「盗聴という手段には歯止めが利かない」というのは、いかなる修正をもってしても歯止めが利かない、という事を意味するからです。確かに原案に比べればましですが、盗聴法を認めてしまった罪は大き過ぎます。鷹月氏の他にも修正案を評価する方はおられると思いますが、はっきり言って置きます。公明党が盗聴法成立に回ったこの行為は、同党の歴史で最凶最悪です。公明党が反対を貫いていれば、盗聴法が成立することは無かったのです。
 しかも、盗聴法に限らず、法律という物は一度出来てしまうと歯止めが利きません。消費税があれほど嫌われたのに、今ではしっかり税率がアップしているのを挙げれば十分でしょう。まして、盗聴法推進者には「このがんじがらめの金しばりになった通信傍受法で、はたして捜査に役立つのか、むしろそっちのほうが心配なくらいだ。」(『産經新聞』'99年6月3日号「産經抄」石井英夫)とか、「公明党の修正は、(中略)過激派のテロやオウムのサリン・テロなどに対応できるかどうかは、きわめて微妙だ。
 それでも自民・自由両党が修正を受け入れたのは、(中略)内外の情勢から(引用者注:組織対策)三法の成立を急ぐ必要があることなどを総合判断したものだろう。」(『讀賣新聞』'99年5月26日号社説)とか言う論調があります。
 つまり公明党の修正案では物足りなく思っている訳です。自民・自由としても、取り敢えず公明党の修正案を受け入れて、あとで原案に近づければ良いや、というのが見え見えです。
 さっきも書きました様に、この修正案では宗教団体が対象から外されています。これは公明党の母体が宗教団体の創価学会であるためでしょう。しかし、だからと言って、それで自分達がいつまでも盗聴から逃れられるという訳ではありません。  2015年[平成27年]3月13日、安倍晋三内閣によって、ついに盗聴法強化案を含む「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」が国会提出されました(第7章参照)。
 そして2016年に成立しましたが、公明党も賛成した事はいうまでもありません。それ自体、盗聴拡大に歯止めが利かない何よりの実証です。

 ただし、創価学会にもまた盗聴疑惑があります。例によって共産党の議長(当時)であった宮本顕治氏宅に盗聴した疑惑で訴えられ(盗聴は1970[昭和45]年の出来事。創価学会から造反した山崎正友氏の告発により、1980[昭和55]年8月、宮本氏側は民事訴訟を起こした)た事実がありました。
 創価学会・公明党側は盗聴は山崎氏が勝手にやった事と主張し、また山崎氏が創価学会に対する恐喝で有罪になっている(山崎氏は冤罪を主張しているが、取り敢えず省く)事を理由に山崎氏の証言は信用出来ないと主張しました。(国会でこの問題を取り上げられたときの主張もほぼ同じ。'93年10月8日の参議院予算委員会での神崎武法氏他)しかし、一審、二審と原告勝訴、創価学会側は上告したものの、途中で取り下げた(原告勝訴確定)という事件があったのです。それを国会('93年10月6日衆議院予算委員会)で追及したのが野中広務氏(自民)で、その野中氏が今では自自公連立の旗振り役だ、と国会で保坂展人氏(社民)に皮肉られていました。('99年6月1日衆議院本会議)また学会員には、検事や警察官もいるので(公明党代表の神崎武法氏も検事出身)、自分達が盗聴する側に回れば自動的に権力中枢の秘密を握れるという思惑があるからではないか、という説(『宝石』'99年8月号「中村敦夫の行動日誌 8」「世紀の悪法・盗聴法 自自公議員たちの責任は重い」中村敦夫)もあるのですが……………。
 もう一つ指摘しますと、自民党は閣外協力時代の社民党に、盗聴法案の修正案を提示した事があります(『朝日新聞』1998[平成10]年2月4日号)。この修正案は「*公明党の修正案で原案と変わった部分」の下に「*備考:かつて自民党が社民党に提示した修正案」としてその概要を載せて置きましたが、「公務員の通信の秘密侵害罪」への罰則が「五年以下の懲役」だったり、何より盗聴法案自体を時限立法、つまり一定期間のみ有効で、期限が来たら再び成立し直す必要がある法律としています。社民党が拒否したためにお流れになりましたが、公明党の修正案よりも、遙かに厳しい内容でした。「社民党が拒否したからこんな法律が出来てしまった」と言われる方もおられるかも知れません。確かに、盗聴法の成立が初めから避けられない物であったなら、その通りです。
 しかし、くどいですが、公明党が賛成に回らなければ、盗聴法の成立はありませんでした。しかも、公明党は「大幅な修正を勝ち取った」と言いますが、実は自民党・法務省の側が、社民党に提示した案より遙かに有利な案を「勝ち取った」というべき内容でした。

公明党の修正案で原案と変わった部分
a,対象犯罪  修正案:(1)薬物犯罪、(2)銃器犯罪、(3)集団密航、  (4)組織的殺人  原案:上記の他殺人、誘拐、放火、人質強要、通貨偽造など  b,盗聴請求権者  修正案:警視以上  原案:警部以上  c,発付権者  修正案:地方裁判所の裁判官のみ  原案:地裁又は簡易裁判所の裁判官  d,立会人  修正案:常時立ち会い、意見を述べることができる  原案:やむを得ない場合には立ち会い不要  e,盗聴要件となる準備犯罪  修正案:長期2年以上の懲役・禁錮の罪(死刑・無期含む)  原案:禁錮以上の罪(死刑・無期含む)  f,他の犯罪の通信傍受  修正案:短期一年以上の懲役・禁錮の罪(死刑・無期含む)  原案:長期三年以上の懲役・禁錮の罪(死刑・無期含む)  g,公務員の通信の秘密侵害罪  修正案:通常の侵害罪より重罰(懲役三年以下、罰金100万円以下)  原案:通常の侵害罪と同等の刑(懲役一年以下、罰金30万円以下) 備考:かつて自民党が社民党に提示した修正案  (1)傍受の対象犯罪の絞り込み  (殺人、誘拐、逮捕監禁罪。それに加え、薬物・銃器犯罪関連に限定)  (2)令状請求手続きの厳格化  (公明党案とほぼ同じ内容)  (3)違法盗聴の罰則強化  (罰則を懲役五年以下に)  (4)傍受を最小限にとどめるための取り締まり  (これについては詳しい内容が分かりませんでした)  (5)時限立法  (期限は十年を目処とし、期限が来たらもう一度続けるか決め直す。決められない  と期限切れで法が消滅する)


主張19−B, 修正案で犯罪の対象を絞り込んだから無関係の市民が巻き込まれる心配は無くなった。(『公明新聞』'99年6月1,3日号、自民党ホームページ「犯罪組織と、闘うために」、他)
反論19−B, 甘い。確かに対象は狭まりましたが、シリーズ(1)で触れました様に2人でも「組織的殺人」にされかねず、しかもその疑いがあると判断すれば盗聴出来るのですからほとんど意味がありません。
 さらに別件盗聴というのがあります。上のがそれに当たります。つまり盗聴中に他の犯罪に関する会話を聞き取れば、それについても盗聴出来るというものです。(盗聴法第十四条)こちらの方は、修正案で条件が逆に甘くなってしまっています。「一年以上の懲役」に相当する罪など、いくらでも有ります。初めから別件が目当てで、偶然別件が見つかったかの様に装う事などいくらでも出来ます。それを判別する方法は、まずありません。そのため、却って原案より悪化した内容になっています。


主張19−C, 修正案で立会人による常時監視を義務づけた。(『公明新聞』 '99年6月1日号、自民党ホームページ「犯罪組織と、闘うために」、他)
反論19−C, この立会人、シリーズ(1)でも述べましたが、ただいるだけです。(盗聴法第十二条)意見を述べる事は出来ますが、会話の内容を聞く事も出来ず、切断権もありません。通信会社の負担の割に、意味はなかったと言えます。なお、立会人に切断権を与えないのは、自民党ホームページの主張によりますと「立会人に事件の証拠関係や通話をしてくるであろう関係者の人間関係などを知らせた上で、通信の内容を聴いてもらうことが必要になり」「立会人に負担がかかり過ぎることはもちろん、かえって関係者のプライバシーを犯すことになりかねません。」(「犯罪組織と、闘うために」)
からだそうです。確かに、NTTの職員が重荷を嫌ったのは事実らしい。(『朝日新聞』'99年5月21日号『「権力」が聴いている(上)』)
 人間関係を知らせなくても、仕事と関係無い盗聴をしているかどうかの区別は付くはずです。繰り返しますが、会話の内容を聞けず、まして止める事は出来ないのですから監視になりません。案の定、盗聴法強化案では立会人省略が可能な内容が盛り込まれています。
 もう一つおまけですが、FAXやEメールはいちいち全文見る必要があるため、たとえ立会人が切断権を持っていても無意味です。(社民党「Q4 盗聴法で言う「立会人」は十分なチェックが可能ですか?」http://www5.sdp.or.jp/central/faq/answer/tou4.htmlより)


主張19−D, 通信傍受を行うには裁判官の令状が必要。裁判官は独立した立場から、法律に定められた要件について慎重な令状審査を行うので、捜査機関の言いなりになることはあり得ない。(自民党ホームページ「犯罪組織と、闘うために」、『産經新聞』'99年5月29日号土本武司氏のコメント、他)
反論19−D, この令状、大仰に見えますが、逮捕令状の場合、最近の発行率は'97年全体で99.93%(簡裁=99.96%、地裁=99.78%)。'96年では全体で99.92%(簡裁=99.94%、地裁=99.86%)。(数字は『世界』'99年8月号「民主社会を脅かす盗聴法案の正体」白取祐司、より)ほとんど却下されません。
 例によって自民党ホームページの「犯罪組織と、闘うために」では令状発行率が高いのは
>令状請求に際して、裁判官から疎明資料が十分でないと指摘された場合には、
>警察官がその令状請求を撤回して持ち帰る場合も少なくないことなどの結果です。
 というのですが、それにしても高過ぎます。逆に言えば、却下という形を取らず、警察が自発的に撤回という形を取っているというのは、裁判官と警察官が馴れ合っている様にも見えるのですが。うがち過ぎでしょうか?
 また、別件盗聴をするに当たって令状を追加するという規定が無いのも問題です。
 盗聴法十四条の規定では、はっきり「別件盗聴に令状が要らない」と書いていない所がいやらしいですが、「令状が要る」とはどの条文にもありませんからそういう事になります。


主張19−E, 違法な盗聴をした場合の罰則を強化した。(『公明新聞』'99年6月1日号、自民党ホームページ「犯罪組織と、闘うために」、他)
反論19−E, 罰則の内容は上のに挙げた通りですが、まだ軽い様に感じます。しかも、立会人が無力な以上、違法盗聴の摘発そのものが難しいでしょう。
 また例によって自民党ホームページによりますと「違法な手続によって傍受された通信の内容は、裁判で証拠にできないこともあります。」とありますが、つまり「証拠にできることもある」という事でしょうか。しかも盗聴法自体には、違法盗聴で得た情報をどう扱うかの規定はありません。無いという事は使っても良いんだろ、となってしまうのです。


 という訳で、公明党の修正案では、大した歯止めになるとは思えません。それどころか、別件盗聴については逆に甘くなってさえいます。この程度の内容で「修正した」と評価するのは全くのぬか喜びです。
 もう一度書きます。公明党が盗聴法賛成に回ったのは最凶最悪の行為である、と。

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