盗聴法シリーズ(2) 盗聴法賛成論に反論(上)(Ver.1.405)


最終更新 2018/12/23

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>しかし、これだけ穴だらけのものが通る世の中ってのも怖いものですね。
>他の人だってそう考えた人がいるかと思うんですが・・・(182番door氏。以下番号
>はすべて鷹月ぐみな氏ホームページ「鷹月ぐみな情報局」にあった
>掲示板の一つ「2号館総合掲示板」での発言番号です。ただし、これらの発言は
>現在は見ることが出来ません。御了承下さい。「美少女ソフトトークボード」での
>発言についても、同様です)
 そう考えた人はたくさん居り、だからこそ私も遅過ぎたと後悔しているのです。盗聴法反対のホームページもたくさんあり、この文章でもかなり参考にさせてもらっています。(なおアドレスは最終回の「参考文献」でまとめて挙げます。)

 私が盗聴法を知ったのは、ちょうど2年前の事でした。雑誌『噂の眞相』'97年10月号の記事で「法務省が成立をもくろむ法案」として採り上げられ、 その危険性が指摘されていました。しかし私はすぐ忘れてしまい、今年になって気が付いたら衆議院を通過。私が再び注目する様になった頃には(どうせ成立するんだという)半ばあきらめの境地で、ほとんど何も出来ないまま参議院でも成立してしまいました。「せめて、反対派の議員に励ましの手紙を送る事くらい出来なかったのか」と後悔しています。
 何より、「組織犯罪対策のためなら仕方がない」と何となく思っていた人が多かった事が通ってしまった原因でしょう。特に推進派マスコミ(『産經』と『讀賣』)は盛んに「組織犯罪対策」を強調していました。それが全くの役立たずという事は、反対派のマスコミもほとんど触れず、みすみす成立に手を貸してしまったのです。
 こうなったら国政選挙で盗聴法賛成派(自公+維新+自由の大部分。立民、国民、希望は態度不明)を過半数割れに追い込み、廃止させるしかありません。そこで遅まきながらこうした文を書いた訳です。
 ところで何故ここまでして盗聴法を通したいのか。反対派の宮崎学氏は、「法務官僚が(盗聴の舞台となる)NTT等に天下りしたいからではないのか。つまり、天下りの利権を増やしたいからではないのか。」と主張していました。(『創』'98年8月号、宮崎学ホームページ)同じく反対派で参議院議員(無所属)の中村敦夫氏は、「ガイドライン法案と関係している」と主張しています。ガイドライン法はアメリカが戦争すれば、日本も共同軍を送らなければなりません。だから
>反戦的な国民の動きを封じるために、そういう考え方を持っている人間や団体を、
>全部監視下に置く。それが(引用者注:盗聴法の)狙いだと思うのです。
>(『宝石』'99年8月号142頁)
 という訳です。いずれもありそうな事ですが(宮崎氏はホームページで寺澤有氏の発言を引用し、いつ起こるか分からん戦争よりも、確実に利権の見込める盗聴法の方が旨みがある、とも指摘しています。
http://web.archive.org/web/20020613113749/http://www.zorro-me.com/miyazaki5/doc/99526ikeda.html参照)、
中村氏の推測は裏付けがあります。ガイドライン法・盗聴法推進者で、自由党党首の小沢一郎氏の発言です。小沢氏は大っぴらに主張してくれるので反論しやすい存在です。そこで小沢氏は、ガイドライン法については「まさに戦争に参加する話」(『正論』'99年6月号84頁)盗聴法については「国防を含めた治安維持に欠かせない。」(『文藝春秋』'99年9月号101頁)とはっきり言っています。その上で「政府はそこの問題を国民に隠して誤魔化している」と指摘しているのです。
 まあ、いずれにしてもろくなもんじゃありません。では、続編行きます。

 (1)といくつか重なりますが、ここでは賛成論への反論を箇条書きで行きます(ただし主張19だけは例外)。
ネタ元は自民党と公明党(自由党はほとんど触れていません)サイト、推進派マスコミの『産經新聞』『讀賣新聞』が主です。ネット上その他個人の発言の場合は、匿名で紹介した物もあります。
 

主張1, 通信傍受法案は、組織的犯罪に対する物である。無原則に市民生活を盗聴する構造になっていないことは、明らかだ。(『讀賣新聞』'99年5月26日号社説、自民党ホームページ「犯罪組織と、闘うために」 http://www.jimin.jp/jimin/saishin9998/seisaku-56.html、他多数。)
反論1, 盗聴法推進派が必ず持ち出してくる主張です。その上で一般人が巻き込まれかねないという反論に対し、「国際常識を切り捨てた議論」(『産經新聞』「主張」'99年5月26日号)、「左派系の野党議員、弁護士そして彼らを煽る組織的犯罪撲滅対策法として上程されているこれらの法案を故意に曲解」(『現代刑事法』1999年11月号、加藤久雄「組織的犯罪対策法の実体的側面」)と切り捨てたりします。
 しかし、第1回で述べたように、「組織犯罪対策」の前提そのものが嘘です。曲解しているのは加藤氏の方です。特に電子メールでは不特定多数が対象なのは明らかです。それとも、被疑者と同じプロバイダを使う人間は、盗聴されて当然と仰りたいのでしょうか。
 

主張2, たとえ一般人の会話が傍受されたとしても、公共の福祉のためには我慢すべきである。(『産經新聞』'99年6月10日号「産經抄」石井英夫、他。)
反論2, ほら、本音が出ました。要するに「凶悪犯を捕まえるために我慢しろ」という事ですが、これまた第1回で述べたように、凶悪犯には無意味です。損するのは一般人だけ。Yamato氏のホームページ(http://www.geocities.com/Tokyo/Flats/2847/、現在は閉鎖)に

>この法律で困るのは、犯罪的な集団とアカとスパイと革命家とそれらのシンパ
>(同調者)、それにカルト教団だけです。

 という主張がありましたが、これとは全く逆に、この法律で困るのは防御の薄い一般人、或いは穏健な団体だけなのです。ついでながら、「相手が共産主義者なら良いや」と思ったら大間違い。そんな事条文のどこにもありません。左翼系団体に使いたいなあ、というのは感じますが。しかし、いざとなれば右も左も歯止めが利きません。例えば汚職なら、保守政治家の方が多いでしょう。汚職は盗聴法の規定外ですが、「別件盗聴」という手があるので意味がありません。(反論18−B参照)


 

主張3, 通信傍受法案は、国防を含めた治安維持に欠かせない。(『文藝春秋』'99年9月号「日本国憲法改正試案」小沢一郎)
反論3, で、これは「主張2」をよりはっきりさせた物です。つまり、「治安維持のために盗聴する」というのは、相手は犯罪者だけではありません。全ての住民をも虞犯者として監視下に置く、という事なのです。
 冗談じゃありません。確かに四六時中国民を見張れば犯罪は減るでしょうが、そんな社会に私は住みたくありません。……………というわけで次の主張に続く。


 

主張4, 反対する人は、組織犯罪を大目に見ても、庶民のプライバシーが大事というのか。(『産經新聞』'99年8月13日号「主張」、他)
反論4, シリーズ(1)反論2でも述べましたが、防御の固い組織犯罪者にはこの法律はほとんど効きません。庶民のプライバシーばかり暴かれる事になります。よってこの二者択一は無意味です。


 

主張5, 「プライバシーの侵害」を理由に反対する人は、他人に聞かれたら後ろめたい事情を持っているからでは無いか。(多数)
反論5, 類似品として、「反対する人は、自分の心をさらけ出せない臆病者だ」「自分は悪いことやってないから盗聴されても平気だ」「反対する人は、何か組織犯罪をたくらんでいるのではないか」というのがあります。

 こら。

 聞かれたら後ろめたいって、そんな事当然でしょう(^o^)。他人に聴かれない(見られない)からこその電話であり、Eメールなのです。公道での会話や掲示板での書き込みとは訳が違うのです。それをなぜ他人に知られなければならないのでしょうか。また後ろめたくなくても、個人的な雑談まで、全て知られなければならないのでしょうか。自分の情報は自分で管理する、それがプライバシーという物でしょう。
 臆病者ですって。見ず知らずの人間に自分をさらけ出す義理はありません。自分を理解している人間を選ぶのは当然の事です。
あ〜〜〜馬鹿馬鹿しい。しかも、臆病者呼ばわりしたこの方は、盗聴者自身の己がさらけ出される事は無いという決定的な矛盾を見落としています。それと、盗聴法を推進した方々が、いつ自分をさらけ出しましたか?(小沢氏は多少出しましたが。)だったら、小渕元首相以下盗聴法推進者全員の電話を自由に盗聴出来る様にするのが筋という物でしょう。
 「でも、俺は平気だもん」という人は、それはそれで良いのですが、そんなのは生き方の問題であり、国家が押し付ける物ではありません。しかしさっきの様な事を言う人は、「自分ってものがないのか!? じゃあ、あんたは相手が死ねっていったら死ぬのか?」(篠原 秋穂:談)とは思います。

 最後の組織犯罪云々は論外です。そもそも盗聴法には、組織(くどいですが、2人でもそうみなされます)犯罪を準備する「疑うに足りる状況」があれば盗聴出来るとあります。(盗聴法第三条)この主張をした方に聞きたい。あなた方が今まで全く犯罪と無縁であっても、将来死ぬまで、絶対に犯罪を犯さないと、どうやって証明出来るのでしょうか。また、あなた方と接触した人物がたまたま盗聴された為に盗聴されないと言えるでしょうか。さらに、盗聴者が他人の会話を盗聴しても大丈夫な、公明正大な人間であると、どうして保証出来るのでしょうか。


 

主張6, 通信傍受法への反対は一部の過激派が煽り立てている。(参議院法務委員会'99年6月8日、平野貞夫、他多数)
反論6, さっき引用したホームページもそうですが、この類似品も非常に多い。やれアカ(共産主義者)の手先だの、果てはオウムの手先だのと。たとえばANSOCホームページ(既に閉鎖されましたが、http://web.archive.org/web/20010720134220/http://www2u.biglobe.ne.jp/~ansoc/で読めます)には、「盗聴法成立阻止するぞホームページに行って署名なんかした日にはオウムみたいなカルトや暴力的思想グループに捕獲されるってコトサ。」
 こういう風に言われると、どうしてもびびってしまう人が多い。反論5でも触れましたが、盗聴法に反対する事自体が犯罪だ、と決めつけようとする論法、いわゆる「二分法」です。

 しかし、その法律が問題であるか、あるいは誰が反対しているかの二つは、本質的には別問題であるはずです。Aという団体とある一点で主張が同じという理由で、だからおまえはAと同じだというのは論理の飛躍です。また、「通信傍受法が成立しないと、組織犯罪者を利する。だから反対派は彼等の手先だ」という論法もありますが、この論法の嘘はシリーズ(1)の三「大物には通用しない」で触れました。役立たずだからです。

 重ねて書きますが、盗聴法が危険というのは、誰が反対しようがしまいが変わらないという事です。だから誰が反対に加わろうが、その事自体は何の問題も無いのです。「共産主義者」というのも、むしろ盗聴を事とする国が共産圏に多い事を考えればすぐおかしいと分かります。「オウムの手先」という批判に至っては、坂本弁護士事件の経過を見る限り、全く的外れです。(主張9反論9参照)
 大体、盗聴法反対派は、あくまで目安ですが、約半数に達しています。もし盗聴法に反対する事をもって「過激派」とみなすならば、日本国民の約半数が「過激派」という事になります。そしてそれが本当ならば、「過激派」を国民の半数に占めさせた方に問題があると言えます。
 この手の論法の厄介なところは、もし現実に一般人が盗聴法の被害を受けても、「あいつは組織犯罪に関わっていたのだ」と痛くもない腹を探られかねない事です。自分の意見に反対であるというだけで悪とみなす。思い上がった考えです。
 盗聴法について、特にネット上で発言される方には「まかり間違えば自分だって」という想像力を持って欲しい。私はそう思います。ANSOCの方や、反対派を「自分をさらけ出す勇気、自分の本心を主張する勇気がない負け犬」「小心者のウソつき」「きみたちには単なる観客としてしか居場所がないのだ。その能力もないのに、表現者のマネをするのはヤメろ。」
(http://www.t3.rim.or.jp/~boogie/e094.htm)と決め付け非難するBoogie氏のあまりに他人事めいた主張に、私は激怒したのです。いざ自分が盗聴法の被害にあって、かつての仲間に「あいつは組織犯罪に関わっていたのだ」と罵られてから途方に暮れても、もう手遅れなのです。
(*2000[平成12]年11月3日注:なお、http://olrrc.freeservers.com/index.htmlによると、ANSOCは事実上、代表の御堂岡啓昭氏個人の運営という。ただし、このサイトは後に閉鎖された)
 「盗聴法反対=共産主義者」のデタラメさは次項にて。


 

主張7, きさまらのような反権力非国民左翼者を取り締まり、社会から抹殺するためには積極的な(引用者注:組織犯罪対策)法の活用が望まれる。(MURASAMEが実施中の「盗聴法読者調査」
http://murasame.s42.xrea.com/question/question.htm]の回答より)

反論7, これも「相手が“共産主義者”だから、やってしまえ」の類いですが、重要なので別項を立てます。
 反論2で引用した意見もそうですが、こういう事を言う人がいるから、私は尚の事盗聴法に反対しなければなりません。以下、その理由を説明します。
 条文に共産主義者を対象とするとは一行も書かれていないにも拘わらず、「盗聴法反対=共産主義=悪」といった主張をする方が居る事自体、盗聴法の危険性を表しています。
 まず、注目していただきたいのは、この種の論者が取り締まれと主張している相手は、具体的に何か犯罪をやったという訳では無い事です。ただ居るだけで悪だ、という発想なのです。
 この発想を「非目的罪」と呼びます。
 「目的罪」というのは、行為者が一定の目的意識を持って犯罪を犯した時に限り罰する、というものです。
 無論、目的意識が無くても、つまり悪気が無くても、基本的には罰せられます。しかしそれは、具体的な犯罪の内容(例えば、違法と知らずに人を騙したとか、機械のミスで人を殺してしまったとか)が形になっているから出来るのです。
 人を罰するには、当然ながら犯罪の事実(未遂含む)が必要です。
 ところが頭の中での考えは実体がありません。ゆえに、その気になれば、いかようにでも悪意の解釈が可能です。だからこそ、頭の中で何を考えていようと、それを罰する事は現行法では出来ないのです。(もっとも、頭の中を盗聴する技術はまだ無い。『ラジオライフ』2004年7月号『余計な心配すべて解消 盗聴よろずクリニック』)
 例えば、オウムだから、共産主義者だから悪いのではなく、その具体的な行動(テロとか革命とか)が初めて問題になるのです。

 盗聴法の危険性を解説するのに、良く引き合いに出されるのが治安維持法です。この法律は1925[大正15]年に制定され、1945[昭和20]年に廃止されました。元々社会主義団体や共産主義団体、もっと言えば当時非合法の日本共産党狙いの法律だったはずでした。
 ところが、1928[昭和3]年の緊急勅令による修正で、「結社ノ目的遂行ノ為ニスル行為」すべてが対象となりました。そしてついには、少しでも政府に反対すれば、「政府を批判する事は“窮極において”共産党の目的遂行の利益になる」という理屈で、創価学会などを始めとした、野放図な治安維持法の適用が行われたのです。また、この理屈は、先ほど挙げた「(通信傍受法に)反対している人たちは、聞かれると困ることをしている人か、その人(「アカ」や組織犯罪者)たちとお友達なのでしょう。 (^o^)」というのと全く同じ論理であり、ここにも盗聴法の危険性が窺えます。
 つまり、「共産主義者だから盗聴する」のではない。「通信傍受法に反対するから共産主義者」だと。完全に論理が逆立ちしています。
 当時の判例では、本人に例えば「共産主義者」の意志が無くても、取り締まる側が「こいつは共産主義者だ」と認識すれば、治安維持法が適用出来るとされていました。その気になれば誰にでも犯罪者の烙印を押す事が可能だったのです。これでは歯止めが利きません。
 法の下の平等に反するという憲法論もありますが、それよりも、そういう実際の危険が分かっていたからこそ、創価学会と公明党は当初盗聴法に反対していたはずだったのですが……………。

 もう一度書きますが、盗聴法に現在の所、思想取り締まりの条文はありません。では何故「共産主義を取り締まれ」という発想が出て来るのか。
 それは、盗聴法も治安維持法も「治安を守るために犯罪を“未然に”防ぐ」、という目的があるからです。普通の防犯ではありません。怪しい相手(実際に犯罪を行ったとは限らない)をあらかじめマークし、盗聴なり団体の取り潰しなりを行う。犯罪が行われていないうちから、犯罪者扱いしてしまうのです。発想が同じだから、表向きの目的には無い「共産主義を取り締まれ」「反対する奴はアカだ」という意見が出て来るのです。
 この発想は、「行政盗聴」と呼びます。盗聴が犯罪捜査のみの目的なら、「司法盗聴」です。犯罪の予防・鎮圧を目的とする警察活動全体を「行政警察」と呼ぶのと同じです。ただし、行政盗聴は、米国などの例では警察ではなく、専門の情報判断(Intelligence)機関が行う傾向にあります。

 民主党の河村たかし氏が
「自民党が共産党みたいに国家管理を言い、共産党が自由を言う。自由主義の危機だ」(『毎日新聞』'99年8月10日号)と嘆いていましたが、私もそう思います。公明党の大森礼子氏が、民主党の海野徹氏が管理社会の恐ろしさの例としてジョージ=オーウェルの『1984年』を挙げたのに対し、「共産主義社会への警告という趣旨でジョージ・オーウェルが書いていたと思います。」(参議院法務委員会'99年7月13日議事録14頁)と言われていましたが、だからこそ問題なのです。
 河村氏も言われたように、共産主義を最も嫌っているはずの(2000年の衆議院選挙でも随分そういうビラをばらまいたそうな)与党の政策が、当に共産主義的管理社会に当てはまってしまうという事態は滑稽と言うより、非常に恐ろしい事です。
 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)や中国では、ホテルの中まで盗聴されていると言われています。また、他の国でも盗聴が日常茶飯事の国は多数あります。「黒田ジャーナル」の一員という筆者はそうした国々での取材について、こう書いています。

取材に当たって、いちいち当局にそのリストを提出し、許可をもらわないことには、人に会うこともできない。私の経験では、そうやってリストを提出しても、大半が不許可になる。それでは仕事にならないので、当局の目を盗んだつもりで取材を進め、翌日、同じリストを出すと「あなたは、きのう勝手にこことここに行きましたね」と言われて、ぞっとしたことがある。極端な全体主義国家、独裁国家、そして紛争中の国家では、それが当たり前のことだった。そうした経験をするたびに、私たちに限らず多くの人々が、なんて不便で薄気味の悪い国なんだと思ったはずである。
(『宝石』'99年8月号(休刊号)「マスコミカルテ」103頁)

 賛成派は、日本をそういう独裁国家にしたいのでしょうか。
 もっとも、「共産主義的」と書きましたが、国家というのは、思想を問わず同じ発想をするのかも知れません。NSAを擁する米国がいい例です。


 

主張8,  「日本の警察もそれ(引用者注:一般人の会話を利用して何かする)ほどヒマではあるまい。」『正論』'99年8月号「マスコミ照魔鏡 38回」稲垣武、他)
反論8, 残念ながら暇人は実際に居ます(反論10参照)。そして、暇人一人で盗聴法は危険なものとなります。
 「盗聴した内容をチェックするには膨大な時間がかかる」からそれほど心配は要らない、という主張もあります。確かに、電話についてはその通りです。しかし、電子メールはかなり違います。電話は一時間の会話を聞くのに一時間掛かります。しかし、メールならば、書くのに一時間掛けても読むのははるかに短時間で済みます。
 ただし、米国"The Washington Post"紙によれば2010年現在、NSAによる盗聴が1日17億件とあまりに増えすぎたため、情報の分析が追いついていないという指摘が出ています(『産經新聞』2010年7月20日号「米国の対テロ組織は非効率的 Wポストが調査報道」犬塚陽介)。さらに、暴露サイト"Cryptome"で公開された2012年12月10日から2013年1月8日までの記録では、NSAは世界で1248億件(1日41億6千万件)。日本における盗聴は、最多となった平成25[2013]年度でも19346件(とは言え前年比倍増)ですから、全く次元が違います。

 もっと問題なのは、電話は今その瞬間の会話しか盗聴出来ないのに対し、電子メールならば保存されている限り、いつでも、いつまでも盗聴が出来る事です。また、コンピュータは、サーチエンジンに代表されるように、検索が得意です。たとえばMURASAMEという人間のデータが手に入れたければ、それらしいキーワードを入力すれば、たやすく全世界から資料を収集出来るのです。最近は検索機能も発達していますから、「盗聴法に反対している人」などと文章で条件を付けて調べることも可能になりつつあります。

 たとえば、gezigezi氏の指摘された「エシェロン(ECHELON、はしごの列の意。エシュロンとも)」。これは組織名ではなく、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの各国の諜報機関同盟(UKUSA)による盗聴作戦のコード名です。NSA(アメリカ国家安全保障局)が中心になっているのですが、そこではいま述べたキーワード検索による電話やメールの盗聴をすでに行っているのです。
(『法学セミナー』'99年11月号「これが国際盗聴組織「エシュロン」だ!――EU報告書を読む」指宿信、『シークレット・パワー: 国際盗聴網エシェロンとUKUSA同盟の闇』ニッキー=ハーガー著、佐藤雅彦訳、リベルタ出版参照。また「宮崎学 キツネ目の男」内で、現在は削除されましたが、当時の情報はhttp://web.archive.org/web/20020209115245/http://www.zorro-me.com/miyazaki8/text/ECHELONAm_jp.html参照)私と鷹月氏のメールもこの分だと盗聴されていそうです。

 これは決して杞憂ではありません。エシェロンを取材して来た岸本卓也氏はこう書いています。

 「電話では伝えられないので手紙で連絡します」と最近の私は急ぎの用でなければ重要な情報を手紙で送っている。エシュロン機関の取材を始めてからロンドン支局の電話を取るのがいやになった。エシュロン機関に参加する英政府情報本部(GCHQ)が外国の報道機関の電話、ファクス、Eメールを盗聴している可能性があるからだ。
(『毎日新聞』2000年4月19日号「記者の目」「エシュロンの盗聴問題」岸本卓也)

 コンピュータの利点が、盗聴では一転して電話に比べ、遙かに危険な理由に様変わりします。全部のメールを調べる時間は無くても、検索して必要な情報を取り出す事は短時間で出来ます。そして、スノーデン氏の暴露で、こうした心配はほぼ実証されました。


 

主張9, 通信傍受法案があれば坂本弁護士一家殺害事件は無かった。('99年5月21日「衆議院法務委員会」菅義偉(すが よしひで)・松尾邦弘。『産經新聞』'99年5月29日号 「オウム抑止効果も期待」村上新太郎。6月18日放映、テレビ朝日「あまから問答」陣内孝雄(じんのうち たかお)法相、他。)
反論9, 菅(自民党)&松尾(刑事局長)氏の発言は『産經』で大々的に採り上げていましたが、これは嘘です。盗聴法の対象から宗教者は除かれているからです。(盗聴法第十五条。ただし、傍受令状に被疑者として記載されている者を除くので、例外はある)坂本堤弁護士事件当時、オウム真理教は歴とした宗教法人でした(現在は任意団体、Alephと改称)。おまけに坂本弁護士事件当時、警察はオウムよりも、むしろ坂本弁護士側をマークしていました。オウムへの捜査も行いましたが、「坂本弁護士は依頼者の金を使い込み」「失踪」だの、「学生時代に過激派の活動に加わっており、その関係で内ゲバに巻き込まれた」だのと流言を流したのです(江川紹子『全真相 坂本弁護士一家拉致・殺害事件』146頁)。
 また、大山友之氏(坂本堤弁護士の妻・都子(さとこ)氏の父)によると、捜査に当たった神奈川県警は「都子のボランティアの仲間や友人には、執拗な事情聴取を延々と続け」「オウムとの関係については、早い時点で、弁護士に丸投げ」(大山友之『都子聞こえますか オウム坂本一家殺害事件 父親の手記』137-138頁)したといいます。
 当時の捜査責任者だった古賀光彦・県警刑事部長は、明らかにオウムでは無く、坂本弁護士側を標的にしていたのです。
 ちなみに、盗聴法の原案では宗教団体も対象に含まれていました。しかしそれでも大した効果は無かったでしょう。例によって、簡単に盗聴されるような通信を使うはずが無いからです。また、故・坂本氏は横浜法律事務所の弁護士で、横浜法律事務所からは、神奈川県警に自宅を盗聴されたと訴えていた共産党・緒方氏の弁護団にも加わっていました(ただし、中心になったのは別の法律事務所の弁護士)。そのため警察も捜査に身が入らず、しかも拉致事件では無く、「失踪事件」として扱っていたという事実がありました。坂本氏の関係者が警察に文句を言ったところ、「坂本一家は失踪だ、拉致ではない、そのうち坂本らが出てきたら、君ら大恥をかくぞ」と警察側は答えたそうです。(『週刊金曜日』'99年1月22日号「警察にバタフライナイフを与えるな」26頁佐高信、「参議院本会議」'99年8月12日緒方靖夫)その結果は、ここに書くまでもありません。

 そういういきさつを考えますと、盗聴法があれば、坂本氏の側ばかり盗聴していたのでは無いかとさえ思えます。
(参考「盗聴法政府・自民党の逆キャンペーン 取材で明白3つのデマを暴く」中村敦夫。
現在は削除されましたが、http://web.archive.org/web/20040503195143/http://www.monjiro.org/tokusyu/tochou/demagogie.htmlで読めます、『内外タイムス』1999年7月7日号。しかし、「通信傍受法案があれば坂本弁護士一家殺害事件は無かった。」と言う人は、なぜか共産党嫌いに多いように見受けられます。彼等はその発言の矛盾に気づいていないのでしょうか? まさか、「アカ弁護士が死んでくれて、とても嬉しい」などと裏でほくそ笑んでいたんじゃないでしょうね。)
 たとえば、Twitterで自民党支持者として知られるDAPPI氏。オウムへの破壊活動防止法適用反対を非難しながら、返す刀で「オウム真理教ですら対象にされてない破防法の監視対象となってるのが日本共産党」
(https://twitter.com/take_off_dress/status/1016569507190411264
https://twitter.com/take_off_dress/status/1016569955699978240)、とふざけた発言をしています。
 共産党が人畜無害とはいいません。ですが、彼は坂本弁護士一家殺害事件に限って言えば、まさにオウム真理教の同志でした。当時、オウムの麻原代表は記者会見で「横浜法律事務所は」「共産党系の事務所」「その方法論には非常に疑問がある」「オウム真理教が事件の背後にあるようなことをずいぶん捏造している」と主張しました(前掲、江川 139-140頁)。
 もし、オウムが坂本弁護士一家殺害事件で矛を収めていたら、DAPPI氏の様な人は麻原氏の主張に大いに膝を打ったでしょうし、「共産党系の弁護士」が殺された事に小躍りこそすれ、一片の同情もしなかったでしょうから。


 

主張10, 日本の警察は信用できる。(自民党ホームページ「犯罪組織と、闘うために」)
反論10, 残念ながらそうとは言えません。
 反論9でも触れましたが、共産党幹部の緒方靖夫氏宅が盗聴されたという事件がありました。緒方氏側は警察の組織的犯行として民事訴訟を起こし、'97年6月26日東京高裁での警察による組織的犯行を認める判決に国・神奈川県側が上告を諦めた事から 原告勝訴が確定しました。しかし、警察は今でも組織的犯行を認めていません。('99年3月2日の参議院予算委員会での関口祐弘警察庁長官答弁他)その一方で、実行犯5人のうち1人は自殺し、1人は変死しています。こういうのをトカゲのしっぽ切りというのです。しかも、神奈川県警はまたまた不祥事を起こしました。反論7の続きになりますが、こんな暇人が居るようでは警察を信用出来ないのも仕方が無いのではないでしょうか。「疑い出したら切りが無い」という方も 居ますが、盗聴の影響を考えますと慎重になるのも当然です。


 

主張11, 通信傍受法は'94年のナポリサミットと同時開催された「国際組織犯罪に関する閣僚級会議」以来組織犯罪対策として国際世論から求められている。 (『産經新聞』'99年5月26日号「主張」、公明党機関紙『公明新聞』'99年6月1日号、他)
反論11, このナポリサミットは社会党(現社民党)の村山富市氏が首相として出席したため、「社民党も通信傍受を認めていたではないか」と言われたりもしました。しかしこのナポリサミットでの取り決めは

>(通信傍受などの方法は)国際的に認められた人権及び基本的自由、
>特にプライバシーの権利を尊重しながら、かつ適切な司法的承認又は監督の
>下で運用される場合には、検討されるべきである(『朝日新聞』'99年6月10日号
>より孫引き、また「1999年度 宮澤浩一事例研究T「組織犯罪対策法と
>通信傍受制度」について」草野順太郎・竹永中・平林徹哉、を参照。
>現在は削除されていますが、ネット版は
http://web.archive.org/web/20020414071624/http://www.fps.chuo-u.ac.jp/~p970719/shiryohen.htmで読めます)

 つまりプライバシーを尊重して初めて「検討」すべきとしているのです。しかもあくまで「検討」なので、絶対にやれと言っている訳ではありません。衆議院での成立を急いだのは、今年6月に開かれたケルンサミットに間に合わせるためだったと言いますが、本末転倒です。また、「国際社会の要請」を強調していますが、一方で特に人権に関する条約には消極的です。全くの御都合主義です。


 

主張12, 通信傍受法はアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ、イタリアなど主要先進諸国のほぼすべてにおいて導入されている。無いのは日本だけ。
(自民党ホームページ「犯罪組織と、闘うために」、『讀賣新聞』'99年5月29日号「国際社会の要請にこたえる」福元竜哉、他多数)
反論12, スノーデン氏が暴露したNSAなどの盗聴実態を見ると、確かに今の日本はまだそこまで酷くない、という事は出来ます。しかし、これらの諸国は伝統的に官警に対する監視が厳しい事も、また事実です。だからこそ、イギリス『ガーディアン』紙などはスノーデン氏の暴露を大々的に記事に出来たのです。また例えばアメリカでは、有名無実化していたとはいえ「犯罪に関係ない会話はなるべく聴かない」、すなわち最小限の原則がありました。ところが日本では、一応同様の規定はあるものの、犯罪に関係があるかを知るために試し聞きが出来てしまいます(盗聴法第十三条)。「日本は諸外国に比べ厳格」とは言えないのです。アメリカでは、当時から85%の人が盗聴に反対していました。
(光文社『宝石』'99年7月号「中村敦夫の行動日誌 7」中村敦夫、インタビュー構成:高橋健二)2001年のアメリカ大規模テロ事件で、アメリカの盗聴法は一通の令状で複数の通信が盗聴出来るなど、大幅に盗聴の制限が緩められました(第7回に詳細)。しかし、アメリカではこれまでも、盗聴法導入によって犯罪の増加に歯止めが掛かっていません。犯罪抑止の効果は非常に疑問です。 『産經』はこの法案の通過後「ふつうの国≠ノ近づいた」
('99年8月13日号「主張」)と喜んでいましたが、この例に挙げられた国々はことごとく日本より犯罪が多い。嫌だよそんな「ふつうの国」。(ただし、各国で統計方法が違うので、単純比較は出来ない事を付け加えておきます)


 

主張13, 「盗聴法」という表現は国民に誤解を与える。「通信傍受法」と呼んで欲しい。('99年6月1日の法務省によるマスコミへの通達、自民党機関紙『自由民主』'99年6月15日号、『産經新聞』'99年8月13日号「主張」、他)
反論13, 盗聴法でいう「通信傍受」とは、

>「通信」とは、電話その他の電気通信であって、その伝送路の全部若しくは一部が
>有線(有線以外の方式で電波その他の電磁波を送り、又は受けるための電気的
>設備に附属する有線を除く。)であるもの又はその伝送路に交換設備があるものを
>いう。
>2 この法律について「傍受」とは、現に行われている他人間の通信について、
>その内容を知るため、当該通信の当事者のいずれの同意も得ないで、これを受ける
>ことをいう。(盗聴法第二条1,2項)

 とあります。見ての通り無線通信の傍受は含まないのですが、ともすると勘違いしかねない用語です。なぜなら、「傍受」とは、もともと「無線」通信を第三者が聴く事を指すからです。これは無線通信は、基本的に第三者に聴かれる事を前提としているからです。また、「盗聴」というのは、第三者の会話を盗み聞きする行為です。この法律でいう「傍受」とは、どう見ても「盗聴」です。これを傍受と呼ぶ事は、却って誤解を招きかねないのです。『正論』一九九九年八月号で稲垣武氏が「イメージの悪い言葉に言い換えようとすることが問題なのだ」と言い、「盗聴法」と呼ぶ者を「卑しい根性だ」と批判していますが、大きなお世話です。むしろ、「盗聴法」という表現にびくびくする方が卑しいです。
 ただし、元々「盗聴」も「傍受」も軍事用語から来ており、実際には混同して使っていたようです。産經新聞も初期は盗聴法案の見出しに「盗聴捜査導入を提案」(1997[平成9]年7月19日号、太字は引用者)と「盗聴」を使っていました。
 椎橋隆幸[しいばし たかゆき]氏(『警察公論』1998年2月号「通信傍受立法をめぐる最近の動向(2)」)によりますと、初めて意識して「傍受」を使ったのは渥美東洋氏が1972[昭和47]年に発表した「プライヴァシーと刑事訴訟法」のようです(のち『捜査の原理』(有斐閣)に収録、25頁など。ただし「盗聴」「ワイヤ・タッピング」と併用)。そして、盗聴法案成立が現実化すると、椎橋氏や井上正仁氏らの賛成論者は「傍受」に一本化して行きました。その上で「盗聴」という表現を抹殺しようとしているところに、むしろ盗聴法案の本質が見え隠れしている、と白取祐司氏は指摘していました。(『世界』'99年8月号「民主社会を脅かす盗聴法案の実体」27頁)
 なお「合法なら「傍受」で、違法なら「盗聴」」だという説もありますが(前掲稲垣氏文中田原総一朗氏、衆議院本会議'99年6月1日八代英太氏他)、根拠は全くありません。
 「盗聴法」表記を批判した当の『讀賣新聞』でも、英文ではいずれも"Wiretapping"(盗聴する)と訳しています(「「バリ爆弾テロ 日本も対応策を強化しなければ」」http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/learning/editorial/20051007/05.htm、削除済)。「通信傍受」相当の"interception"は使っていないのです。結局、政府が「盗聴」表記を嫌ったからという以上の理由はありません。
 付け加えるならば、盗聴法先進国の例として挙げられるアメリカでは、政府発表の通りに法律名を書いたりはしません。分かりやすく書き換えるのが当たり前です。(大規模テロ事件以降はやや異なるようですが)この点、推進派はやはり御都合主義と言えます。


 

主張14, 通信傍受を行うには、対象となる犯罪を疑うに足りる「十分な理由」(盗聴法第三条1項)が必要であり、濫用される心配はない。(自民党ホームページ「犯罪組織と、闘うために」、他)
反論14, 誰の発言か忘れてしまいましたが、「十分な理由」というのは、緊急逮捕(現行犯以外を逮捕する場合、裁判所の令状が必要なのですが、それの不要な逮捕)の時に必要な条件と同じで、通常の逮捕の時に必要な「相当な理由」より厳格だ、と言った人も居ました。
 一見もっともな気もしますが、盗聴を行うに足りる「十分な理由」と言えるのか、肝心の基準が示されていません。これでは、歯止めになるのか疑問です。

 ただし、『産經新聞』('99年6月18日号)の取材に対し、「十分な理由」の例として、法務省は見解として「覚せい剤事件を例に取ると、組織内にいた人物の供述など」、警察庁幹部の発言として「捜査員が必死に内偵捜査を進め、これ以上追跡すれば生命に危険が及ぶか、事件そのものの立件が不可能になる場合など」と、一応基準を示しています。
 しかし、これは公式なものではないため、本当にこの通りになる保証はありません。その上、別件盗聴では「死刑若しくは無期若しくは一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる」全ての犯罪に対し盗聴出来ます(盗聴法第十四条)。これに対する基準は、事実上ありません。


 

主張15, 全ての傍受者に対してそれを通知しないのは、犯罪に関係のない通信の当事者、例えば、被疑者の友人や一般の取引先にまで広く通知をすることは、かえって、被疑者の不利益になると考えられるからです。(自民党ホームページ「犯罪組織と、闘うために」)
反論15, 一見ごもっとも。しかし、これは「自分は通知されなかったが、実は盗聴されていたのではないか」という疑心暗鬼を生む元となります。特に不特定多数が盗聴される恐れのあるWeb、Eメールの場合はそうです。当然、全員に知る権利があります。分かっててこんな回答をしたのであれば、ある意味相当なタマかも知れませんが。


 

主張16, 今までは盗聴そのものを罰する法が無かった。例えば秋葉原などの電気街では盗聴機器が簡単に手に入る。通信傍受法は違法な盗聴を禁じる内容で、盗聴の合法化では無い。(『産經新聞』'99年8月13日号「主張」、他)
反論16, なるほど違法盗聴ははびこっています。しかしそれを規制するのと、捜査による盗聴を合法化するのは全く別の話です。
 ついでに言いますと、盗聴がばれるのは盗聴器そのものの発見の他に、逆盗聴による物も多いと言われています。そういった自衛の手段を奪い、盗聴を警察の一手に独占する事で、警察は神の手を持つに等しい存在になってしまいます。
くどいですが、防御の薄い一般人(あるいは「逸般人」)に対して、です。


 

主張17, 保坂展人氏への盗聴事件は、組織犯罪対策三法の成立を妨害する悪質な意図の存在が背後にあるのではないか。(野田毅[1999年7月8日記者会見より]、『週刊新潮』1999年7月22日号「保坂展人氏「盗聴」はホントに警察の仕業か」、『正論』一九九九年九月号「マスコミ照魔鏡 39回」稲垣武、「盗聴したのは警察か 〜保坂議員盗聴問題を考える〜」 http://www.geocities.co.jp/WallStreet/7009/mg9908-2.htm 中島健、他)
反論17, 保坂氏への盗聴事件とは、1999年6月30日に朝日新聞社に、テレビ朝日「朝まで生テレビ」への保坂氏出演交渉の会話を盗聴した記録が送りつけられ、テレ朝と知らせを受けた保坂氏が東京地方検察庁に被疑者不明のまま告訴した事件です。また、朝日への怪文書は警察が試験的に通信傍受を始めていると警告していました。
 賛成派でも論者によって濃淡があり、中島氏がもっとも断定的で(また野田発言も全面支持)、野田氏、『週刊新潮』がこれに次ぎ、稲垣氏は「怪文書の内容自体が虚偽である可能性が高い」とやや慎重な言い回しです。
 この種の謀略事件は、犯人不明のままうやむやにされる場合が多く、保坂氏の告訴も2000[平成12]年11月28日、盗聴の事実を確認出来ないとして不起訴処分となっています。緒方氏宅盗聴が神奈川県警の犯行と裁判で認められたのは、本当に稀な事なのです。この為反対派による謀略が100%嘘、とは現状では断定できません。とはいえ、保坂氏とテレ朝が怪しければ、ここぞとばかり検察は調べるはずですから、両者の自作自演はまずあり得ません。
 また、賛成派の主張があまりにいい加減なのも事実です。
 まず、盗聴法成立の妨害という説ですが、これは状況証拠以上のものはありません。これに先立つ5月30日に但木敬一[ただき けいいち]法務省官房長官の自宅にボーガンの矢が打ち込まれ、車のタイヤも千枚通しでパンクさせられていた事件がありました。但木氏は「組対法が絡んだ嫌がらせだ」と主張しました。しかし、この事件は翌年5月17日に司法浪人生の男が逮捕され、有罪確定しています。これを受けて但木氏が反対派に謝罪した、あるいは真犯人は別にいると反論したという話を私は知りません。
 次に、「反対派の朝日や毎日に送ったのは謀略」というものですが、盗聴法廃止の意図で送るなら、より記事にされる可能性の高いマスコミに送るのが当然であり、これを以て謀略とするのは無理があります。
 さらに、これらの論者が無視しているのが、保坂氏に電話したテレ朝の記者は平河クラブ(与党担当の記者クラブ)に所属していた事です。テレ朝が「盗聴されたのは、平河クラブの電話の可能性が高い」と発表すると、自民党は13日「記者クラブに関する実情を知らない国民に自民党がこの件に関与していたかのような誤解を与えており、はなはだ遺憾だ」と抗議しています。
 テレ朝は自民党の仕業とは一言もいっていないのですが、賛成派の論理がそっくりそのまま自分に跳ね返ってくる事に気づき慌てたのでしょうか。何故ならば、たとえ謀略説が正しくても、野田氏らの論理ならば本当の犯人は自民党の誰かと見る事も可能だからです。
 例えば私が鷹月氏にメールを出して、それが何者かに盗聴されたと私が言った場合、鷹月氏のプロバイダが私に「我が社が盗聴していたかのような印象を与える」と抗議するようなものです。こんな間の抜けた抗議までしたという事は、それだけ自民党がマスコミ報道に神経質であった事を意味します。(それ とも本当に身に覚えがあったとか!? しかも、平河クラブが自民党本部内にある事も一因だろう)
 また、『FLASH』「国会$ュ治記者クラブの電話が[盗聴]された!」(1999年7月27日号)によれば、テレ朝記者は自民党加藤派担当であったといいます。派閥会長の加藤紘一氏は当時自民党総裁選出馬を有力視されていましたから、自民党内部犯行説も全くあり得ないわけではないのです。少なくとも、安易に盗聴法反対派の仕業と断定した賛成派こそ、ためにする議論というべきです。
 なお、坂上富男代議士(民主)の「盗聴が捜査機関によるものか謀略なのか2つの観点から法務委員会など国会の場で真相究明していきたい」という発言に対し、中島氏は「捜査機関による盗聴の可能性に言及しているという点で、代議士の見識を疑わざるを得ない」と批判していますが、緒方氏宅盗聴は誰の仕業でしたっけ。調子に乗るんじゃない。


 

主張18, 通信傍受法は憲法に違反していない。(井上正仁、渥美東洋、田口守一、他)
反論18, 私は、盗聴法を違憲と思いますし、また合憲か違憲かを問わず廃止すべきと考えています。しかし、刑事訴訟法の学界では、残念ながら盗聴法合憲説が多数です。これらの合憲説は、法律論だけでなく、捜査の実務に必要であるとの視点から構成されているのも特徴です。まず、関係する憲法の条文を挙げます。

日本國憲法
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第二十一条
二項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十五条一項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。


アメリカ合衆国憲法
Amendment IV
The right of the people to be secure in their persons, houses, papers, and effects, against unreasonable searches and seizures, shall not be violated, and no warrants shall issue, but upon probable cause, supported by oath or affirmation, and particularly describing the place to be searched, and the persons or things to be seized.
(アメリカ大使館・アメリカンセンターJAPAN
https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2569/による日本語訳)
修正第4条[不合理な捜索・押収・抑留の禁止] [1791 年成立]
国民が、不合理な捜索および押収または抑留から身体、家屋、書類および所持品の安全を保障される権利は、これを侵してはならない。いかなる令状も、宣誓または宣誓に代る確約にもとづいて、相当な理由が示され、かつ、捜索する場所および抑留する人または押収する物品が個別に明示されていない限り、これを発給してはならない。

 次に、主な学説を列挙します。

1,令状、または差押許可状による盗聴も盗聴法も違憲説、強制処分説(白取祐司、村井敏邦、小田中聰樹、他)

 日本国憲法上、盗聴捜査は一切認められないという説。憲法二十一条二項「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」を、侵してはならない対象の限定を行っていないとして、あらゆる通信の秘密侵害を禁じていると重視する。また、憲法三十一条に定められた適正手続きの保証、同じく三十五条一項に定められた捜査、処分対象特定が出来ない点からも違憲とする。さらに、強制処分、すなわち逮捕や捜査、差押などと同様に、対象者の意志に関係無く、職権で強制的に行う処分であるとする。


2,令状、または差押許可状による盗聴は違憲だが、盗聴法は合憲説、強制処分説(井上、田口、田宮裕、他。多数説)

 刑事訴訟法百九十七条に「捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。」とある。これを強制処分法定主義という。盗聴はこれまでの捜査とは異なり実体の無い「無体物」であり、それを扱うための法律が無いと強制処分法定主義に反し、違法となる。この点は1,説と同じだが、しかしそれに合った法律、つまり盗聴法を作れば良いとする。
 一般的に、合憲論者は憲法二十一条二項を軽視、または無視する。または、憲法十三条の「公共の福祉」が優越すると主張している論者もいる(田口「参議院法務委員会1999/07/22」での参考人質疑他)。一方で三十一条は適正手続きの保証が可能とみる。また、三十五条一項のモデルとなった合衆国憲法修正第四条の元でアメリカが盗聴を合憲としている事から、日本においても合憲であるとしている(井上『捜査手段としての通信・会話の傍受』)。逆に、三十五条一項の「押収」に相当しない、新しい強制処分だから、その性質にあった規制をすべきとの主張(田宮『刑事訴訟法』)もある。


3,令状、または差押許可状による盗聴、盗聴法共に合憲説、強制処分説(渥美(「差押許可状」とする)、最高裁判所第三小法廷判決平成11・12・16、他)

 強制処分ではあるが、刑事訴訟法では無体物であっても捜査の対象に入るとしている。判決では「犯罪の捜査上、真にやむを得ないと認められるとき」には許されるとした。ただし、判決の事例で出された検証令状の場合、盗聴法に拠る物よりも条件を厳しくしている。


4,令状、または差押許可状による盗聴、盗聴法共に合憲説、任意処分説(東京高等裁判所判決昭和29・7・17、他)

 盗聴は、聴かれた側が物理的影響を受けないので強制処分に当たらず、通常の捜査として合憲であるとの説。しかし、憲法二十一条二項の通信の秘密の侵害、三十五条のプライバシーの保護に反するという理由で、現在これを取る論者は少ない。
 東京高裁の判決は新潟十日町事件判決と呼ばれるが、盗聴対象が共産党員であり、当時共産党が武力革命を放棄して間も無かった事もあり、政治的理由で捜査側に有利な判決が出された可能性が高い。憲法判断でも十三条の公共の福祉のみを根拠とし、二十一条二項の通信の秘密侵害は無視している。もっとも、後にやはり共産党の幹部である緒方靖夫氏宅が盗聴された際は、憲法以前にすんなりと違法判決が出ている。

 私は、1,の違憲説を支持します。


主張19, (盗聴法賛否はさて置き)あなた(MURASAME)もプライバシー侵害をした事があるではないか。また、マスコミによる盗聴・盗撮事件もある。それで盗聴法反対といわれても説得力があるだろうか。
反論19, 私の過ちについては、お詫びのしようもありません。記事に不信感を持たれてしまうのも当然です。二度と過ちは繰り返しません。後は、これからの行動と記事内容で、判断して頂くしかありません。
 ただ、マスコミについては個人と公人は分ける必要があると思います。
 個人への盗聴・盗撮は論外です。しかし、公職に就いている人物の場合は、公職の職権の分だけ、プライバシーなども制限されるべき存在です。公務で職権を使っていながら、追及されるとプライバシーを盾に逃げるのでは汚職などの追及も出来なくなってしまいます。
 盗聴法は不特定多数の人間を標的に出来る法ですから、公人への取材と同列に扱うべきではありません。


 次回は、公明党の修正案評価論、その他に対する反論です。

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