第44回衆議院議員総選挙の総括(中編)

 

2005/10/07 最終更新2005/11/12

比例代表区結果

第44回衆議院議員総選挙各党得票・議席(比例代表区)
政党得票数得票率当選者議席率前回得票数前回
得票率
前回
当選者
前回
議席率
《与党》
自由民主党25,887,79838.18%7742.78%20,660,18534.96%6938.33%
公明党8,987,62013.25%2312.78%8,733,44414.78%2513.89%
与党計34,875,41851.43%10055.56%29,393,62949.73%9452.22%
《郵政造反新党》
国民新党1,183,0731.74%21.11%
新党日本1,643,5062.42%10.56%
造反新党計2,826,5794.17%31.67%
《野党・その他》
民主党(合計)21,036,42531.02%6133.89%22,095,63637.39%7240.00%
民主党(自由党系)--73.89%--116.11%
日本共産党4,919,1877.25%95.00%4,586,1727.76%95.00%
社会民主党3,719,5225.49%63.33%3,027,3905.12%52.78%
新党大地433,9380.64%10.56%
野党(大地除く)計29,675,13443.76%7642.22%29,709,19850.27%8647.78%
野党+郵政造反32,935,65148.57%8044.44%
与党+郵政造反+大地38,135,93556.24%10457.78%
合計67,811,069100.00%180100.00%59,102,827100.00%180100.00%
無効票1,717,357---2,080,459---
当日棄権者数33,535,779---41,113,468---
当日有権者数103,067,966---102,306,684---
投票率67.46%---59.81%---
盗聴法賛成派合計11161.67%10558.33%

参考資料:総務省「平成17年9月11日執行 衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果調
上のデータまとめて表示(PDF)
第43回衆議院議員総選挙結果(15.11.9執行)(PDF)

比例代表区・野党の分析

 見ての通り、比例区では、与党が過半数の得票を得ています。前回は比例区では民主党が第一党でしたが、自民党が第一党を奪い返しました。
 とはいえ、与党の議席率55.56%は、小選挙区の75.67%より2割以上低く、小選挙区制の魔術が如実に示されています。
 選挙区との大きな相違は、選挙区候補の少ない各党の得票(自民・民主・共産・比例区に候補を立てていない世界経済共同体党以外)が大きく増え、その分自民・民主の得票が減少していることです。
 与党の得票数は3488万票。選挙区の与党計・3349万票にかなり近く、選挙協力が機能したことが窺えます。選挙区では候補を9人に絞り、98万票であった公明党が、比例区では過去最高の898万票を得ています。比例区で公明党に投じられた票のかなりが、選挙区では自民党候補に向かったと思われます。ただし、公明党は得票数こそ過去最高でしたが、得票率は下がっており、得票増も自民党が522万票なのに対し、公明党は25万票に過ぎません。多くの自民党及び一部の郵政造反組の小選挙区候補は、「比例は公明」を訴え、選挙事務所にも公明党のポスターを貼るなど協力姿勢を見せました。それでも、公明党の得た得票増は微々たるものでした。自民党支持者は元来、選挙協力にきわめて不義理な姿勢を取る傾向にあるのですが(かつての自社さ連立政権、保守新党の顛末などを見よ)、今回も如実に表れました。と同時に、自民党支持者にとって、公明党は相容れる存在ではなく、政権維持のために利用する存在。と割り切られていることもまた示しています。要らなくなったらこれまでのように捨てるだけなのです。これまでの社さや保守新との重大な違いとして、創価学会の強固な組織票があるため公明党は保っています。自民党が公明党をも意のままに消化し尽くすのか、それとも創価学会の組織票をテコに自民党をも脅かし続けるのか。

 民主党は、前回までは比例区で強かったのですが、これが逆転しました。前回から引き続き候補を立てた政党・政治団体で、得票が減ったのは民主党だけですから、民主党にとって敗北は明らかです。ただ、選挙区の得票は増えており、得票率も0.22%の微減であるのに、議席は半分以下に激減しています。比例区では民主党支持者から自民党(あるいは、一部は国民新、社民など)への流出はあったでしょうが、それほど大きなものではなく、新たに投票所に足を運んだ層の支持を得られなかったと結論づけられます。また、選挙区の得票率がほとんど変化はなかったのは、国民新党・新党日本支持層などの郵政民営化反対派や、共産党・社民党支持層が、自党が擁立を見送った選挙区では民主党に票を投じたからではないでしょうか(共社は擁立見送りが増えている。特に共産は、1960年総選挙で原則全選挙区擁立を初めて以来、45年ぶりに本格的に見送りを行ったので注目されたが、共産が見送った選挙区は1つを除いて自民または造反組が全勝しており、民主の勝った福島3区はダブルスコアの圧勝であり、元より共産票の影響の及ばない選挙区だった。共産見送りが選挙戦に及ぼした影響はほとんど無かったと言わざるを得ない)。民主党は選挙区で290万票増やしており、社民党の71万票、与党+造反組の選挙区・比例区の差198万票を加えるとかなり民主党の上積み分に近づきます。選挙区では民主党に投じたが、比例区では積極的に民主党を支持しない層が増えたのが、選挙区・比例区得票逆転の理由であろうと思います。
 民主・共産・社民三党の計では、34,064票だけ減りました。自民系を除いた総野党支持者の数はほぼ前回並みだったことになります。ただし、投票率は上がりましたから、一部が新たに野党に投じたのとほぼ同じか少し多い票が与党(または新党)に流出し、さらに与党には新たに票を投じた有権者が加わったのでしょう。

 共産党・社民党は議席を死守しましたが、全く自慢になりません。社民党は前回比1議席増ですが、自民党が東京ブロックで勝ちすぎ、候補が足りないため1議席が次点の社民党に行っただけに過ぎず、実質は現状維持です。ただし、その1議席が、盗聴法反対に最も尽くした議員の一人である保坂展人氏であることが、この総選挙での数少ない救いでした。そして、両党とも前々回の議席(20と19)には遠く及びません。改憲案提出が現実のものとなっており、特に自民党が言論の自由を抹殺する案をあの手この手で用意している(「盗聴法について考える」「第7回」参照)現状で、言論の自由を守るためにも護憲派の両党が重要な存在になるのですが、事実上1議席も増やせなかったことはきわめて深刻です。
 特に共産党。「総選挙の結果について」で「善戦・健闘といえるものです。」いえないよ。健闘というためには、少なくとも前々回並みの20議席に戻す必要がありました。共産党は今回、民主党への批判を強め、社民党に対しても「「護憲」を最大の「セールスポイント」にしながら、憲法9条を変え、国連決議があれば海外で武力行使をする、という民主党との「協力関係」は、有権者に説明できない」(2005/総選挙をめぐる各党の政治姿勢と政策)と批判しました。いわゆる社民主要打撃論というやつです。
 しかし、それは確かに一理あるけれども、その結果が民主党の一人負け、自民党の一人勝ちでは無意味です。特に左派の立場からは自民であろうと民主であろうと一緒と言われますが(逆に右派が自民と民主の差異を殊更に際だたせるのと対照的である。民主党を叩く目的は一緒であるが…)、では自民が増えてもどうと言うことはないかというと、残念ながらそうではないのです。盗聴法強化はもちろん、共謀罪創設、そして改憲が早まるばかりです。共産党の議席は現状のまま、勝ったのは自民だけでは、共産の戦略は失敗というしかありません。
 前出のgori氏は「『大いなる疑い』があるのは民主党の体質」(「Irregular Expression」)で共産の民主批判について「一言で纏めれば「めった斬り」。共産党は必要悪だな」。どういうことか。今の共産党は、自民党(あるいはgori氏のような自民党の忠実な応援団にとって)にとって、民主党を挟撃するために都合の良い存在にされてしまっています。つまり、民主党にダメージを与えるだけで、今回の共産党自体はさほど脅威ではないと見切られてしまった。その結果、みすみす自民を助ける結果になってしまった。選挙が終わってから改めてこの一文を読んで、非常に胸くそ悪くなりました。
 え、毎日新聞の報道? じゃあイラクで人質となった邦人被害者の言い分も取材したらどうですか、goriさん。
 閑話休題。第三党以下の排除が計算されている小選挙区制では、二大政党でまだしもましな民主党をどうにかして協力させるか、せめて社民党と協力して左派勢力の結集を狙うしかないのですが、共産は名誉ある玉砕を望んでいるようです。しかし、勝手な玉砕をされては住民はたまったものではありません。小選挙区制となって4度目の選挙。この制度は不条理ですし、批判は大切ですが、それは既に分かり切っていること。ところが、自民党はいわば「民主主要打撃論」を見事に成功させ、共産党をも間接的に利用した。この両者の差はどうか。先に述べましたが、ネット上の自民党支持者や産經・讀賣などの親自民系メディアが、自民党と民主党の差異を際だたせ、「民主党は共産党や社民党と同じ"反対のための反対党"」などと、保守系有権者に見られる共社への抵抗を利用したことは特筆すべきです。民主党はこうした「右からの」圧力に弱い。そして、左派系の論者はこうした圧力への対応を顧慮していないとしか思えないのです。
参考:日本共産党のとる全小選挙区立候補戦術の誤り(原仙作氏)
「戦術的問題について」(黒目氏)
(上のトラックバック)
共産党の選挙戦術について(労働者L氏)

相田寓言 (8/28)(「極東SEEDディスティニー」、「民主党と社会党は同じ」論のほんの一例)
民主党の復活はあるのか?(「彰の介の証言」、「民主党と社会党は同じ」論のほんの二例)

新党と強烈な逆ハンディ制度

 郵政民営化造反組は、苦戦を強いられながらも最低限の議席は確保しました。国民新党が現状の4議席を死守し、新党日本も比例区で得票率2%を超え、さまざまな特典を受けられる政党要件(国会議員5人以上か、前回の衆院選または前々回までの参院選得票率2%以上。選挙区・比例区のいずれか一方で可。また、衆議院解散から総選挙までの期間に限り、解散時に議員だった者も国会議員として扱われる)をクリアしました。とはいえ、私にとっては自民同様基本的には支持できる存在ではありません。特に、無所属当選組は、遠からず自民に戻るつもりでしょうし、たとえ小泉総裁が除名しても、状況次第で復帰するでしょう(野田聖子氏はこの結果を受け、郵政民営化法案に賛成を表明し、実際に票を投じた。勝手にやってろ!)。
 とはいえ、国民新党・新党日本が政党要件を満たそうと悪戦苦闘したことは触れるべきでしょう。
 公職選挙法(法庫より)では、政党とその他の政治団体(マスメディアのいう「諸派」)の選挙活動に露骨な差別を設けています。

政党とその他の政治団体・無所属の格差(衆議院総選挙の場合)」(表が大きくなったため独立の記事としました)
 両新党は当然ながら結党時は選挙経験がないため、政党要件を満たすには国会議員を5人集めるしかありませんでした。国民新党は衆参併せて6人を確保しましたが、新党日本は4人。そこで国民新党に参加した長谷川憲正氏が一時的に新党日本に移籍することで、両党が政党要件を満たして総選挙に臨み、選挙で新党日本が得票率2%の要件を満たすと、長谷川氏は国民新党に移籍しました。
 マスメディアによると彼らは「「選挙互助会」的な色彩が強い」(『朝日新聞』8月17日号他)のだという。ついでに公明党の神崎代表もこの尻馬に乗っています。
 自民や民主も互助会ではないのかという批判(「「報道互助会」の惨心」、竹山徹朗氏(トラックバック))はもちろんのこと、「政党」と「その他の政治団体」の格差はどれだけ酷い物か。
 上の格差リストを見て頂ければ、格差が全般にわたっているのがお判り頂けると思います。特に凶悪なのが、「その他の政治団体」候補は小選挙区の政見放送が禁止されていること、小選挙区と比例代表区の重複立候補が禁止されていることでしょう。「その他の政治団体」や無所属候補は選挙区の政見放送に出演できないばかりか、法律上の差別があまり知られていないため、あいつは政見放送をさぼったとか、酷い場合になると出馬したことさえ認識されないという言われなき不条理に見舞われます。
 重複立候補制は、小選挙区で落ちた候補が比例区で当選するのはおかしいと批判があります。しかし、たとえ小選挙区で勝ち目が薄くても、惜敗率を上積みすることで比例区で当選できるため、候補者に票を掘り起こさせる効果があり、公明・共産以外の政党は基本的に採用しています。実際に、国民新党の亀井久興氏と新党日本の滝実氏は、比例重複立候補したために小選挙区で落ちましたが比例区で助かりました。もしその他の政治団体であったなら、両者は選挙区・比例区いずれかで単独出馬するしかなく、玉砕覚悟で地盤を捨てるか否かの選択を迫られるところでした。そうなれば、比例区でも票が伸びずに落選していたかも知れません。
 他にも、ポスターやビラ枚数、選挙カー(または船)台数など、ほとんどの選挙活動で政党枠が作られています。たとえばポスターなら、政党枠用は自己負担ながら、公設掲示場に貼るポスターの2倍の寸法(4倍の面積)で作れるのですから、宣伝効果は桁が違います。選挙カーも、一台しか使えないのと政党枠と手分けして選挙区を回るのとでは効率が大違い。しかも、公費負担に「供託金返還」などの条件の付いている項目が多いのに、政党しか出演できない小選挙区の政見放送制作費は無条件で公費負担。おまけに国会議員のいる政党には、議席・得票数に比例して政党交付金(H16年度支給額へ)(PDF)が支給されます。とにかく新規参加を徹底して虐待した制度なのです。
 政党間で議員を貸し借りするなんてばからしいという批判は尤もです。しかし、これほど酷い格差があるのでは、何とかして政党要件を満たそうとするのは当たり前。特にマスメディアは、公職選挙法の差別待遇を承知で「選挙互助会」のレッテルを貼ったのですから、悪人と言う他ありません。
 マスメディアの報道でも、「政党」と「その他の政治団体」で儼然と差を付けています。国民新党や新党日本は選挙期間中の報道でも政党名を名指しされ、6党首討論会にも参加できましたが、新党大地や世界経済共同体党は無視。大地は地域政党だからと思われる方もいるでしょうが、それを言うなら国民新や日本も全国に候補を立ててはいません。あまつさえ、新党大地は議席を獲得したのに、『毎日新聞』などは議席数集計で「諸派」に入れ、わざわざ「諸派は新党大地」と注釈を付けていました。
 特に無所属候補の場合、自民党の「刺客」が使える選挙活動と、無所属造反組の使える選挙活動を比較して頂ければ、単に組織的締め付けやマスメディアの報道だけではなく、法律上もどれだけ圧倒的に不利な条件を強いられたか、お判り頂けると思います。逆に言えば、これだけ不利な条件であっても、自民党復党を見越して無所属出馬を選択した候補者の多さに、いかに自民党を離れられない候補者が多いか、また自民党の締め付けが強烈であったか分かろうという物です。

 「諸派」では、鈴木宗男氏の新党大地が議席を獲得しましたが、これは鈴木氏が元議員ですから他のミニ政党と趣を異にします。しかし、全国的に大勝した自民党が、北海道では選挙区でも比例区でも勝てなかったこと、新党大地は衆院の諸派比例区では初めての議席獲得であることは注目に値します。強者の論理、弱者への憎悪に彩られた新自由主義への反対もはっきり表明しており、少なくとも北海道では無視できない勢力となりました。
 「唯一神又吉イエス」こと世界経済共同体党の又吉光雄氏も、ネタ扱いされがちですが「強者の論理」に抗う共通点があります。又吉氏の得票は前回に引き続き、全候補者中最下位でした。でも、「「金が第一・金が全て」「罪・犯罪の元凶・原因」の利益至上主義経済が原因の戦争・紛争・テロ・殺人事件・自殺・産業事故・公害病・飢餓等により、毎日、日本・世界で数万人以上が死んでいる。これらの命を首相小泉純一郎・海江田万里・与謝野馨・堀江泰信らが防ぎ、守ることができるのか。彼らは逆に「金が第一・金が全て」「罪・犯罪の元凶・原因」である利益至上主義経済による政治で、これらの命を殺す者達に過ぎない」(「衆議院選の唯一神又吉イエスの政治スタンス(姿勢)」)という主張。流石に結論には同意しかねますが(まだ死にたくはない!)、かなりの部分その通りと思いますよ。


小選挙区比例代表並立制の魔術(by宮川隆義)

2005年総選挙の感想(定性面)」(gori氏)
http://www.wafu.ne.jp/~gori/mt/mt-tb.cgi/609
「選挙」には圧勝したが」(shigezo69氏)
2005-09-13 選挙は終わりました。(B層罵りは、独裁者への側面支援)
2005-09-16 半数満たない票で7割超える議席を奪う詐欺的方法は独裁の始まり」(minshushugisha氏)
遅ればせながら得票率と「民意」を考える」(Cepterキール氏)
「小泉マジック」と「小選挙区制マジック」の合体による巨大与党の出現(9/14の項)」(五十嵐仁氏、前後も参照)

 Blogを中心に、小選挙区制の魔術について指摘した文書を拾い上げました。上二つ(+トラックバック)が自民支持の立場から…てまたあの人か。下四つは野党支持か反自民の立場。野党側が多いのは、私自身が現政権を支持しないせいもありますが、与党勝利を喜ぶ人々はあまりこういうことには触れない、というのもあります。(与党支持者の喜びの声をもっと見たければ「ブロガーたちは自民圧勝の結果をどう見るか?自民支持者によるコラム詰め合わせ。」をどうぞ。読んでいてむかむかするが、反論したい部分は、後ほど触れる)

 自民党の296議席、議席率61.67%。これは55年体制当初の287議席、議席率61.46%(1958年・第28回総選挙、定数467)を上回り、1960年・第29回総選挙の296議席(議席率63.38%)に次ぐ大勝です。この時、自民党の得票は22,740,271票で、得票率57.56%でした。1割低い得票率でほぼ同等の議席(第28回総選挙では22,976,846票で得票率57.80%。総有権者の比である絶対得票率44.17%ともども、自民党最高峰の記録である。にもかかわらず第29回より議席が少ないのは、第29回では社会党から民主社会党が独立し、両党が候補者を増やし共倒れが相次いだためである)ですから、この差が小選挙区比例代表制の魔術ということになります。もし、民主党のいうように単純小選挙区制であったなら、自民党は219/300で議席率73%!
 もう一つ魔術と呼ぶに相応しいのは、民主党の選挙区得票率がほとんど変化無しであったにもかかわらず、その議席を半減させたという現実です。(いい加減未更新が続いているのでここまでで一度アップします。2005/10/07 03:20。以下は10/09加筆分)
 この種は、前回民主党が都市部で比較的健闘し、獲得議席も都市部に集中していたのが、自民党が都市部で票を伸ばしたために、地滑り的に民主党の議席を奪取したためです。

民主党が議席増した道県 北海道(7→8)、岡山(0→2)
民主党が議席減した都府県 宮城(3→1)、埼玉(8→3)、千葉(8→1)、神奈川(7→0)、東京(12→1)、石川(1→0)、静岡(3→2)、愛知(10→6)、滋賀(3→2)、大阪(9→2)、兵庫(3→0)、奈良(2→1)、広島(1→0)、山口(1→0)、福岡(5→1)、佐賀(1→0)
(前回他党・無所属で当選し民主に加わった候補者は、前回も民主であったと見倣しています)

 見ての通り、地方でも議席を失ったところはありますが、特に首都圏の激減が酷い。東京・神奈川・千葉・埼玉の議席は35から5に減ってしまった。他に3議席以上減らしているのは愛知、大阪、兵庫、福岡。これらの8都府県での議席減は48と、実に全体の9割を占めています。京都で3議席を維持したのを例外として、大都市圏でことごとく敗れています。都道府県ごとの数字は計算間違いがあるのではと思えるほどです(本当に間違えているかも…)。全ての地域で得票数は増やしていますが、負けた地域ではそれを上回る支持が自民党に集まり競り負けたという構図です。

民主党勝利・敗北都道府県の議席数・得票数・得票率など
都道府県候補者数前回比議席前回比得票数前回比相対
得票率
前回比絶対
得票率
前回比
敗北区計161+620-5614,626,822.88+908,658.90936.59-4.07
首都圏
(東京・神奈川・千葉・埼玉)
7105-306,562,922+160,30536.64-5.36
愛知・大阪・兵庫・福岡57+49-185,263,680.88+450,632.90938.35-2.74
その他33+26-82,800,220+297,72133.60-3.67
勝利区計
(北海道・岡山)
17+110+31,807,094+266,72942.56+1.45
その他の県計111+152208,370,869.859+1,815,244.635.10+4.43
全国計289+2252-5324,804,786.739+2,990,632.50936.44-0.2224.09+2.75
表2 都市度別の選挙結果比較
(「二〇〇五年総選挙分析――自民党圧勝の構図 地方の刺客が呼んだ「都市の蜂起」」蒲島郁夫・菅原琢『中央公論』11月号112頁より)
自民党
候補者当選者得票率(%)
200320052003200520032005
都市8991317441.649.1
中間93100587147.249.4
農村9599797455.149.7
民主党
候補者当選者得票率(%)
200320052003200520032005
都市9999601642.837.4
中間9298352642.540.4
農村7692101035.034.6

 「二〇〇五年総選挙分析――自民党圧勝の構図 地方の刺客が呼んだ「都市の蜂起」」にある「都市」「中間」「農村」は300小選挙区を人口集中度順に三等分した物。民主党は全ての地域で得票率を減らしていますが、都市部での落ち込みが大きく、農村部では候補を増やしたこともあり減少はわずかです。逆に、自民党は都市部で大きく票を伸ばしましたが、農村部では逆に減っています。これは、造反組が農村部に集中しており、しかも造反組への支持が比較的高かったためです。同論文に造反組は農村23、中間5、都市5出馬し、当選は同じく14、1、0。同じく比例復活は1、1、0とあります。農村部では造反組が健闘したが、都市部では全て刺客に「殺された」。そして、農村部の自民分裂区では、民主党はほとんど付け入る隙がなかった。つまり、分裂選挙になっても民主党に漁夫の利を得られる危険性が比較的低い地域でした。
 自民党は300選挙区のうち、わずか33の刺客選挙区に報道機関の注目を集めることに成功させ、都市部の有権者を引きつけた。その結果、都市部での地滑り的大勝利を収めることができたばかりでなく、農村部でも民主党に付け入る隙を与えなかった、これが自民大勝の理由である。というのが同論文の見解です(前掲114頁より、筆者の責任で要約)。私はこの結論に同意します。

小泉氏は小選挙区制に反対だった

 さて。民主党は単純小選挙区制導入を一貫して主張しており、今回のマニフェスト(14 政治改革・行政改革を参照)でも比例定数80削減を公約にしていました。従って、民主党に限って言えば、負けても自業自得です。
 ところが、小泉政権支持者でも知らないフリをしている(または本当に知らない)人が多いですが、小泉純一郎氏は元来中選挙区制論者です。
 小選挙区制は、実際の導入こそ非自民の細川護煕政権下で行われましたが、自由民主党にとって鳩山一郎総裁以来の悲願でした。1991年8月5日、海部俊樹内閣のもと、小選挙区300、比例代表171の小選挙区比例代表並立制導入を柱とした公職選挙法改正案を提出しました。ちなみに、この案をまとめたのが、9月19日死去した後藤田正晴氏です。小泉氏は「政治改革議員連盟」代表世話人として反対の急先鋒に立ち、「内閣が『命運をかける』といった法案が廃案になれば、退陣するのが当然だ」と主張。9月30日廃案が決定し、海部首相は解散総選挙を模索するも断念し、総辞職しました。共産党の『しんぶん赤旗』8月21日号「小泉首相の無責任言行録」によれば、「内閣が命運をかけた政治改革法案が廃案になるのだから、海部内閣が総辞職するのは当たり前という私の言い分が通って、結果はその通りになったわけです」(小泉氏の政治団体・東泉会発行『泉』1992年23号。強調引用者)と自画自賛していたとか。
 現在の小選挙区比例代表並立制の開始となった1994年・細川政権下での公職選挙法改正。小泉氏は、1993年11月18日の修正政府案に反対。これは当時自民党が野党でしたから当たり前ですが、これに先立って自民党案を棄権。さらに、1994年1月21日に修正政府案が与党社会党などの造反者により否決されると、細川・河野洋平自民党総裁会談で妥協案に合意(土井たか子議長は施行日を空白にして可決させることで、事実上の廃案にさせようとしたが逆手に取られた)。29日に採決され、起立多数で成立しましたが、小泉氏は再び棄権しました。
 この当時、小選挙区制導入こそ政治改革であると謳われ、「政治改革法案」と俗称されました。小泉氏のような反対論者は、容赦なく「守旧派」と攻撃されました。その小泉氏がどうして造反議員を平気で脅せるのか。郵政民営化法案で正面突破をしたことで、小泉氏は筋を通したと言われていますがとんでもない。棄権議員の公認を認めたのも、このことに突っ込みが入ることを恐れたからだと言えなくもありません。しかし、選挙前には何故かほとんど指摘されませんでした(私もその一人…反省!)。
 自民党案は小選挙区300、比例区171。政府修正案は小選挙区274、比例区226で全国1区。そして成案は、小選挙区300で比例区200・比例は11ブロック制でした(2000年に比例区は20減)。

 そして、もし中選挙区制のままならば、刺客を送り込んでもこれほどの効果は無かったでしょう。中選挙区制でも、最盛期の田中派が自派候補を乱立させ、他派候補を蹴落としたように刺客は皆無ではありません(最近では、2004年参院選静岡選挙区[定数2]で民主党現職の海野徹氏に対し、連合が藤本祐司氏を擁立させ、藤本氏を全面支援。目論み通り海野氏を蹴落とすことに成功した。海野氏が静岡空港建設反対したのを連合静岡の石井水穂会長らが憎んだからという)。
 しかし、中選挙区制は当選者が複数ですから、対立候補を立てたから相手が不利になるとは限らない。また、中選挙区時代の自民党は一選挙区で複数候補当選を前提としていましたから、公認候補といえども力は分散し、絶対的な存在ではありませんでした。このことが逆に、候補を乱立させても互いに競い合い、自民党全体の力を維持していました(競い合いすなわち選挙違反となった例も多々ありますが)。
 ところが、小選挙区制は基本的に1選挙区一人だけ。一人に権力が集中するのですから、党公認の重みは何倍にも増します。たとえ刺客が当選できなくても、特定候補を集中攻撃することで落選させることはかなり可能になりました。加えて、中選挙区時代より無所属候補は格段に選挙運動が不利になっています(中選挙区時代は、無所属でも政見放送に出演できたなど)。造反者潰しがやりやすい条件が整っていたことになります。
記者の目:「刺客」戦術、大当たりした首相だが…=青島顕(社会部)」(『毎日新聞』9月21日号)

『官僚王国解体論―日本の危機を救う法』の小選挙区制反対論

 小泉氏は1996年に出版した『官僚王国解体論―日本の危機を救う法』(光文社 ISBN 4334052347)で、

私は小選挙区比例代表制度に最初から最後まで、終始一貫して反対し続けた。政府案にはもちろん反対票を投じ、それに対抗して提出された自民党案に対してすら棄権で応じた。(中略)
 そもそもこの法案、憲法違反の疑いがきわめて濃厚だ。憲法第四十三条「両議員の組織・代表」には、次のように明記されている。

1 両議員は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。

 こう書かれているにもかかわらず、新しい選挙制度のもとでは、有権者が審判を下し、落選させたはずの候補者が堂々と議員になってしまうことが可能だ」(24〜25頁)「落選候補者が復活して議員の座にヌケヌケと納まってしまうのだ。この点だけでも、憲法第四十三条に対する重大な違反だという私の主張は十分、理解していただけると思う。
(33頁)
いずれ選挙は公認を調整したり名簿の登載順位を決定する政党の幹部たちが牛耳るものとなってしまう。
 こうなると、誰も党幹部のいうことには逆らえなくなる。ましてや初めて選挙に打って出る新人たちは、幹部におべっかを使い、その子分になる以外に政党のなかで生きる途がなくなる。ちょっとでも逆らったら、すぐさま公認は取り消されるだろう
(53頁、強調引用者)
 地元から当選する代議士が一人の場合、有権者にとってその人物が野党議員であっては困るということだ。つまり地元への利益誘導のみを考えた場合には、予算を取ってくることのできる与党にいるのが圧倒的に有利なのである。
 ここからさらに二つのことがいえる。一つは次回の選挙が小選挙区制度で行われた場合、とりあえず与党にいる方が有利であるということ(逆に野党は死にものぐるいで与党になろうとするだろう)。二つめは、選挙後、自分が当選しても野党の立場になってしまった場合。これでは次の選挙も安心できないので、もともと政策の違わない与党に入ろうとする動きが出てくるだろうということだ。あるいは、地元から与党に入ってくれという圧力がかかるかもしれない。
 こうなると政権交代が可能な二大政党制どころの騒ぎではない。二度と政権交代は起こらない巨大与党ができあがる可能性だってあるのだ。もしそんなことが起きたら、恐ろしいことになるだろうが、その確率は決して低いものではない。
(63〜64頁)
 それにしても、政治改革を論議していた当時の永田町の雰囲気は、まさに熱病にかかったとしかいいようがないものであった。
(中略)
 この当時、永田町で連発された言葉が「改革派」と「守旧派」であった。これは従来の「保守」と「革新」とは違う。よくよく考えれば何が改革であり、何が守旧なのかさっぱりわからない、きわめていいかげんなキャッチフレーズだが、このいいかげんなキャッチフレーズが独り歩きして、猛威をふるい、真摯な論議をどれだけ損ねてしまったかわからない。
 むろん私も「守旧派」のレッテルを貼られたクチである。私が長年の持論である首相公選制を主張すると、これさえも政治改革潰しといわれたほどだ。
(79〜80頁)
 私のように、「小選挙区制度導入が即、改善につながるわけではない」などと主張するとたちまち守旧派と決めつけられ、袋叩きにされたものである。
 したがって、当時、法案には内心では反対だけれども、守旧派のレッテルを貼られるのがいやで賛成してしまったという議員は非常に多かった。国政をあずかる議員の大部分が本音では正しいと思っていない法案に、「守旧派」というレッテルをマスコミから貼られるのが怖いからといって、そのときの雰囲気に流されて賛成してしまったというのだから、その風圧がいかに強いものであったかが、想像できるだろう。
 が、この状況は政界だけではなかった。ある新聞社の政治部の記者によれば、この当時はマスコミのなかにも「じつはよくよく考えてみると小選挙区制度というのはおかしい。反対だ」と心のなかでは思っていても、その意見が社内、あるいは仲間うちではいえない雰囲気があったという。
 93ページから始まる表(引用者注:衆議院議員の小選挙区比例代表並立制法案の、自民案と政府案に対する賛否。『朝日新聞』1994年1月31日号より抜粋)を見ていただきたい。最初から最後まで一貫して小選挙区制度導入に反対したのは、私を含めて本当に数人だ。(引用者注:共産党15人は全員反対。それ以外の党派で、の意味と思われる。共産以外で一度も賛成していないのは小泉氏の他、村田敬次郎氏(自民、両方欠席)、粕屋茂氏(自民、両方欠席)、鯨岡兵助氏(自民→副議長のため党籍離脱、両方棄権)、土井たか子氏(社会→議長のため党籍離脱、慣例により両方棄権)、岩垂寿喜男氏(社会、両方反対)、三野優美氏(社会、両方反対)、北沢清功氏(社会、両方反対)、秋葉忠利氏(社会、両方反対)、小森龍邦氏(社会、両方反対)、濱田健一氏(社会、政府案棄権・自民案反対)、熊谷弘氏(新生、両方欠席)、東祥三氏(公明、両方欠席)、岡崎宏美氏(無所属、両方反対)。以上14人。ただし慣例上棄権する議長と、単なる欠席者を除くと9人)
(中略)
 それにしても、本当のことをいえば袋叩きに遭うから恐ろしくていえない――。これはファシズム以外の何ものでもない。少なくとも、民主主義国家のあるべき姿ではない。小選挙区制度導入前夜の状況は、第二次世界大戦直前、日本中が国をあげて、鬼畜米英を撃滅せよとなったときと状況がたいへん似ているといっても過言ではなかった。
(81〜82頁)
自民党か新進党が単独で過半数を取れば、丸くおさまるのかというと、これがそうともいえないから始末が悪い。
(中略)
 小選挙区制度下の政党幹部の権力はいまより数段、強くなると予想される。というのは、この制度では政治家は資金調達団体を一つしか持つことができず、他方で五人以上の国会議員が所属するか二パーセント以上の得票率を得た政党には、公費助成が行なわれることになっているからだ。
 となると選挙はどうしても党営選挙となり、必然的に資金を握る党幹部が主導権を握ることになる。しかも彼らは公認調整や比例区の名簿登載順位をも決定する権限を持っている。したがって、党幹部の権限はどんどん強くなる。
 ただしこれも、一政党が単独で政権をとった場合と、連立で政権をとった場合とではガラッと違ってくる。おそらく単独で政権をとった場合、政党幹部の力はさらに強くなるだろう。これは数の論理のマジックで、過半数を得た党の主流派、多数派(政党の幹部は基本的に主流派だ)になれば、それは即、政界全体の多数派になったことを意味し、絶大な権限を持つことになるからだ。
 これはいままでの制度でも、長年にわたる田中派―竹下派支配に見られるようにあったことだが、状況はもっと悪くなる。これまでは私のように反主流派的立場の人物、党幹部にたてつくような人間でも当選できたが、これからはそう簡単にはいかなくなるからだ。
 文句をいえば「次の選挙では公認しないぞ」と脅しをかけられ、しかも資金を徹底的に締め上げられる。それでも立候補はできるだろうが、なにしろ当選するのはただ一人なのが小選挙区制度だ。バックについていた組織を剥奪されたら、いかに実力のある政治家といえども苦しくなるに違いない。
 こうなると、小選挙区制度で、一党が単独過半数をとったあとの党内反主流は辛い。おそらく主流派の圧力に耐えきれずに、どんどん脱落していくだろう。そこには中選挙区制度のなかで反主流の活動をしてきた場合とまったく違った苦しさがあるはずだ。
 はっきりいって党内民主主義もへったくれもなくなる。
(85〜87頁、強調引用者)

…もう十分でしょう。
 このように主張していました。ここまで来ると、わざとやっているとさえ思えます。

 小泉氏が生来の小選挙区論者ならまだしも筋は通ります。しかし、小選挙区反対論者であったことを今さら忘れたとは言わせない。
 自分はかつて小選挙区法案に棄権しておいて、いざ自分の法案が否決されると総辞職もせずに国会を解散。その後もことごとく自分が批判した通りのことをやってのけました。さらに調子こいて「郵政民営化の是非が問われたこのたびの総選挙において、これに賛成する自由民主党及び公明党は、多くの国民の信任をいただきました」(9月26日衆議院本会議、所信表明演説にて)
 いただいていません。よくもまあ、ヌケヌケと。自民党が絶対安定多数の議席を得たのも、「刺客」のほとんどが比例区で議席を確保したのも、みなあなたの批判した、小選挙区比例代表並立制の魔術の賜物。あまりにも人を馬鹿にしています。御都合主義の極みです。

 なお、私はドイツ式の小選挙区比例代表併用制か、純粋比例代表制が理想と考えています。小選挙区比例代表併用制は、並立制とは似て非なる内容で、議席配分は比例区に従い、当選者は小選挙区当選者から順に当てはめて行く方式です。「党も人も」という欲求を考慮した制度で、小選挙区当選者は必ず当選が認められるため、当選者が比例配分を越える超過議席が発生することが多いですが、それを除けば比例代表制そのものです。また、小選挙区で落ちても議席配分は比例区に拠るため、他党に遠慮して候補者調整をする必要がないのも長所の一つです(ただし、ドイツでは小党分立を防ぐため、比例区の議席配分は比例得票率5%以上か、小選挙区当選3議席以上の政党に限っている)。
 中選挙区制復活は、現行制度よりはましと思います。もし小泉政権が中選挙区制復活を主張するのなら、私は反対する理由はありません。

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